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【第1回】予備校からひも解くファシリテーション:取り調べ室と教室は同じこと、その訳は?

   

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「反転授業」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?反転授業とは、基本的な知識を自宅などで事前に予習し、教室の授業では問題演習やグループで課題を解決するという授業スタイルです。教える教育から、生徒が自ら学ぶ教育へ。学校や塾などが反転授業の形式を取り入れることで、先生が求められる役割というものも少しずつ変わって来ています。

榎本澄雄さんは、大学受験予備校で英語を教える「塾講師」ではなく、生徒自身が積極的に学びたくなる授業を展開する「ファシリテーター」。一方的に知識を教えるのではなく、授業が楽くなるきっかけや、チームで問題に取り組む生徒同士の繋がりを作っています。

なぜそのようなコミュニティーを作れるのか?実は榎本さんは元・刑事。ファシリテーションの技術は、事件解決へのアプローチから身についたといいます。今回は予備校での取り組みと、普段はなかなか伺えない警察の内情を全3回の連載でお送りします。

(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)

クリエイター :榎本 すみを(ファシリテーター)

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愛媛県出身、早稲田大学人間科学部卒業、元・警視庁知能犯罪捜査官
ファシリテーションを地域に拡大し、コミュニティーデザインも手掛けるkibi 代表取締役
特技のダンスは元・ZOOと共演したほどの腕前、ダンサーとしての一面も

・株式会社kibi : http://kibiinc.tumblr.com

【第1回】予備校の授業からひも解くファシリテーション:取り調べ室と教室は同じこと、その訳は?

1.理解度よりも、どんな気持ちで授業を受けているか
2.大人の都合で生徒を騙さない
3.心にフタをしない、自分らしい生き方を提案する

1.理解度よりも、どんな気持ちで授業を受けているか

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第1回目は榎本さんが展開している予備校でのファシリテーションに注目。生徒の何に着目し、何に応え、ファシリテーションの意味をどう捉えていらっしゃるのかを伺いました。

−−塾の先生だけれども、一方的に教えない。その中でどんなことを意識して授業をしていらっしゃいますか?

榎本さん(以下敬称略)「コアなところを言うと、ずばり「表情」。聞いているか聞いていないかではなくて、生徒がどういう気持ちでそこにいるか?ということが大事。リラックスしているのか、イライラしているのか、隣に女子がいて嬉しいのか(男子生徒に対して)…そういうことがすぐに分かる。俺が話しかけることで、どういう「リアクション」を取ってくれるか?それが自分の中での生徒に対する価値基準、判断基準なんです。生徒が不満足そうだったら、では何が足りないんだろう?とこちらが考えるわけです。」

−−話を聞いているか、授業が分かっているか、ということではないんですね。

榎本「授業中に確認テストをやるクラスがあると思うんですが、俺はテストが終わった後にシェアの時間を設ける。定期テストが終わってから友達と答え合わせをして、ここ間違ってるじゃーん!とか、やったりしませんでしたか?あれって結構楽しいですよね。それを授業で再現すると、みんなが明るくなる。」

−−あまり勉強が得意でなくて、テストも点が取れないようなクラスの場合は?

榎本逆に暗くなってしまうクラスではやらない。自分の持っているクラスごとにやり方を変えます。メンバーによっては、すっごい静かな授業になることもあるし、逆にうるさくなることもある。それはその場次第なんです。」

−−あまりヤル気がない生徒には、どう向き合っていますか?

榎本「勉強について言えば、英語は視覚的に入る子と、音から入る子の2パターンがいるかもしれません。読んだり書いたりできないけれど、ネイティブのイントネーションをオウム返しみたいに上手くマネできる子がいるんです。マネして言えるということは、聞き取れている証拠。それを繰り返せば、英語は喋れるようになる。だから、マネしてやっていいよと。そのうち先生の日本語もマネし始めるんですが、それもみんなで笑ってあげる。そういう楽しい雰囲気を作っていくんです。」

−−勉強の方法ではないアプローチは

榎本「全然塾に来ないけれど、来たらそれなりにやる子っていますよね?まずはその人が聞きたい話をする。雑談を頻繁にするんです。ツンデレの子には、その人が話したくなるような話を色々と投げかけてみる。するとある話題について、その子の話が止まらなくなることがあるんです。授業中でも自分の好きな話題になると、みんなの前でもずっと話し続けるような。でも、俺はその子の話を止めない。他の子達の雰囲気も見つつ、聞いてあげるんです。」

2.大人の都合で生徒を騙さない

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榎本「あるとき聞いた話があって。子供って「ねぇねぇお母さん」と親や大人に向かって頻繁に話しかけますよね?それを「ちょっと待って」と止めてしまうことがある。でも、止めないで「どうしたの?」と聞いてあげた子はいい子に育つと。要はその子の欲求を止めてしまっている。子供は「本当に言いたいことやしたいことをすると止められるんだ…」と心にフタをしてしまうんです。そのフタを開けるのは結構大変で。その心の扉を開ける目と言葉を自分は持っている感じです。」

−−その目と言葉はどういったものなのでしょう?

榎本「それはテクニック的なところなんですが…表情のどこを見れば、何を質問すれば、その人のことが分かるのか?それは自分にとっての原点である、警察で学んだことなんです。」

−−それが一般の人にもできるようになるには、どういうことを意識すれば?

榎本「すごく大きなことを言うと、自分の言いたいことばかり言わないということです。相手の話したいことを聞く。でもこれって何でもそうですよね?セールスだって、自分よりも相手に話させることが大事。何を相手が話したいのか、その心を読む。最近よくあるメンタリストや洗脳などの、いかに相手に行動させるかといった内容。学校の先生にもよくあります。テクニックとしては有効なんですが、自分の意図通りにさせようという思惑があると、後々後悔することになりますよ。」

−−それはどういう意味なのでしょうか?

榎本「ちょっと嫌な言い方をすると、なんとか上手く騙してこの授業を受けさせようとか…要するにそれはお金のことで。塾を辞めると言ってきた生徒がいたとして、それをなんとか経営的な事情で続けさせようとする。でもそれって、生徒が後で分かったり、気が付いたりするんですよ。そこでがっかり感を味わったり、もう人を信じないという反発が起きる。」

−−では辞めると言われたとき、塾側はどういう対応をすれば良いのでしょう?

榎本お互いにとって良い選択は何かを心を尽くして考えるんです。コミュニケーションをとればいい方法は必ず見つかる。でもそれを自分の意図ありきで、こうさせようという思惑があるからいけないんです。取り調べも同じで、無理矢理に供述させようとか、騙して白状させようとかしても絶対に上手く行かない。たまに心根の優しい人が、無実なのに供述させられたという悲劇が起きるけれど、そうなってしまった時の悲惨さといったら…。」

−−罪の大きさはともあれ、塾を無理矢理続けさせるのと、供述を迫るのは同じことですね。

榎本自分の思い通りに人を動かすことは、テクニックとしても使えるだけに、どう使うのかが大事で。洗脳と尋問のテクニックは全く同じなんですよ。だから、その生徒がどうしたら1番幸せになるかを考えるべきなんです。本当は芸術系がめっちゃできるのに、頭がいいから東大を受けさせられたりする子がいる。その時は受けるかもしれないけれど、その子は後で気づきますよ。騙されたとまで思わなくても、自分の人生は間違っていたと。それって不幸なことでしょ?」

−−子供に悟られないようにしながら、大人が願望を叶えようとしている

榎本「生徒はそういうことを全て分かっている。大人の意図は全てバレているんです。なぜなら生徒は「塾を辞めると言うと周りの大人は顔つきを変える」と俺には言うから。きっと安心しているから言えるんでしょうね。」

3.心にフタをしない、自分らしい生き方を提案する

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榎本子供って交渉ごとのプロなんですよ。お金もないし、何でも人に頼ってやらなくてはいけない。だからどうすれば頼めるかを知っているんです。だから人の顔色を良く見る。大人は力があるから、子供の顔色とか見ないで「勉強しろよ」と言えるわけです。」

−−交渉は力を持たざる者の知恵なのですね。

榎本「でも、いわゆるイイ子に染まってしまった子は、自分の心をごまかしてしまう。親が望んだことであっても「私はこれでいくんだ」と自分に思い込ませてしまうんです。そして25歳くらいになってから気づく。私の人生、なんだったんだろうって。自分のやりたいことって本当にこれだったのかな?って思うわけです。」

−−心にフタをしてしまうのは、きっと自分の希望は聞き入れてもらえないだろうな、という心理からくるのでしょうか?

榎本「はい。でもそれが絶対ダメかというと、そうでもないんです。生きていくためには自分を誤摩化さないと無理、という状況もあると思います。1番合理的な判断が、自分のやりたいことを抑えるということだってある。でもその状況に俺がいたとしたら、フタをしないで、やりたいことをやるという生き方があると思うよ?と言う。勉強、恋愛、生活の仕方…きっと自分らしく生きて行く方法があるんじゃないのかなー?と提案したりする。」

−−榎本さんにそう背中を押してもらったら、自分のやりたいことに対して偽らずに向き合える気がします。

榎本「この前、授業時間を10分位使って生徒が失恋話をみんなにシェアしたんですよ。1週間前にフラレてしまった男の子、すごい落ち込んでて。そのクラスは男女みんな仲が良くて、もっとこうした方が良かったんじゃない?これからこうすれば?とグループで解決策を話し始めて。そんなクラスって素晴らしいと思うし、そういうチームを作っていきたい。そんな仲間達だったら、誰かが困った時に必ず助け合えると思うんです。そういうワイワイガヤガヤしたチームこそが、結果的にはイノベーションを起こすんだと、私は強く信じています。」

−−そんなチームの波及効果は

榎本「誰かが塾を辞めようとしても、お前がいないとつまんないから辞めるなよ、と生徒同士が引き止めるんです。そういう場作りをする人がファシリテーターなんです。雑談をしていると、自分にはリスクがある。授業時間も押してしまうし。だけど生徒も好きなことを話して盛り上がっているから、多少延長しても文句は言わないですよ。」

−−ファシリテーターとは、本気でつき合える仲間を作る役割なのですね。

榎本「自分も面白いときは一緒になって手を叩いて笑う。大人が心から楽しんでいる、見たことも無いくらいにはしゃぐ、そういうのを子供が見ると打ち解けたり安心したりするんです。生徒から授業とは全然関係ない話をされたら、それは打ち解けた合図。それもやっぱり警察で学んだことで、いかに協力者を作るかに繋がっているんです。」

ファシリテーションとは人間関係を作ること。ただ単にグループワークが上手く行くことをフォローするのではなく、生徒がどんな気持ちでそこにいるのか?彼らがどうなったら幸せか?に焦点を当てることが大切だと分かりました。次回はファシリテーターとしての基礎を磨いた、警察での経験について伺います。

(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)

クリエイター :榎本 すみを(ファシリテーター)

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愛媛県出身、早稲田大学人間科学部卒業、元・警視庁知能犯罪捜査官
ファシリテーションを地域に拡大し、コミュニティーデザインも手掛けるkibi 代表取締役
特技のダンスは元・ZOOと共演したほどの腕前、ダンサーとしての一面も

・株式会社kibi : http://kibiinc.tumblr.comnk”>http://otonarimusic.wix.com/tachikawa

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