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第7回山内マリコ『かわいい結婚』 長続きする結婚生活とは、幸せのあり方に折り合いをつけること。

      2015/06/16

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

「本を読む」という行為は自分との対話に他ならない。特にフィクション作品は、読む人の内に感性に基づく独自の解釈が形成されることで、得られるものが変わる。良い読書は人を変えるものなのだ。本を読み、自分が変わっていく快感。それを繰り返す内に、人はいつの間にか読書中毒になっていく…。本連載は、そんな読書中毒患者の皆と一緒に、より深く読書の森へ入り込んでいくことを楽しむために生まれたものである。

山内マリコ『かわいい結婚』

第7回山内マリコ『かわいい結婚』 長続きする結婚生活とは、幸せのあり方に折り合いをつけること。

第7回の書評は「かわいい結婚」山内マリコ(著)です。

サバービア文学の旗手・山内マリコ

第7回山内マリコ『かわいい結婚』 長続きする結婚生活とは、幸せのあり方に折り合いをつけること。
いい恋をして、結婚し、子どもをつくり、家を買って、幸せに過ごす。

それが「当たり前」であった時代はとうに終わり、ライフスタイルにも個性化の波は押し寄せてきている。結婚どころか性生活のあり方すらも変化しており、同性婚も当たり前になっていくだろうし、今後テクノロジーが進歩していくにつれ、必ずしも人との性交渉が必要ではない社会となっていくかもしれない。さまざまなライフスタイルが承認されていくことで、人類史上類を見ない多様化がきっと進んでいくのだろう。

しかし、こういった変革を興じるのはもっぱら都心や人口密集地。こと日本の田舎や郊外では保守的なムードが根強く残るもの。これを遅れていると取るか古きよき慣習を残すと取るかは難しいところだろうが、こういったサバービア(郊外住宅地)の世界観を描き出すことにおいて右に出るもののいない作家がいる。

本書の著者・山内マリコだ。

デビュー作の「ここは退屈迎えに来て」は、その一級品のタイトルとともに、日本におけるサバービアを描いた優れた文学作品として話題を呼んだ。
その後もサバービア感溢れる作品を次々と産みだしていく著者だが、5作目となるこの「かわいい結婚」ではそこまでサバービアを表に出していない(といっても本書は短篇集なので、表題作以外ではサバービアを描いている話もある。)。かわりに大きなテーマとなっているのは、都心部と郊外で最も感性の違いが如実に現れるであろう『結婚』についてだ。

結婚はゴールではなく、スタート

第7回山内マリコ『かわいい結婚』 長続きする結婚生活とは、幸せのあり方に折り合いをつけること。

生活圏だけでなく、男女間でも意識に差のある結婚観。負債と考えがちな男性に対し、女性は結婚をひとつの「ゴール」として考えている人が多いように思う。往年のシンデレラや白雪姫などの物語から「ふたりは結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ」という結末を過剰に信仰してしまっているのか、「結婚=幸せ」の構図が出来上がってしまっているようにも見える。

言うまでもなく、結婚はスタート。物語では「末永く」の一言でまとめられているが、幸せになるためにはこの「末永く」の部分をいかに過ごせるかにかかっている。これから幸せになれるかどうかは負債・・・失礼、夫妻が互いに「幸せになろう」と努力しないと得られないものだからだ。

「かわいい結婚」の主人公・ひかりは、一切の家事ができない。結婚するまでにまともに家事をする機会もなく、半ば結婚すれば自動的にできるようになるものだとすら思っていたフシがある。あるきっかけで家事を学ぶことになるひかりは、効率よく家事をこなすことに一種のカタルシスを感じるようになった。元々はアパレル店長としてそれなりに切り盛りしていたこともある。自分なりにこなせるようになれば楽しみも見いだせるのだろう。

テキパキと家事をこなせるようになったひかりだが、専業主婦としては当たり前のことができるようになっただけ。夫からは特に感謝されることもない。そこでふと気づく。

この日々が一生ずっと続くのだということに。
死ぬまで。
エンドレスに、
家事は続く。
休日もなけりゃ定年もない。

(中略)

「正幸のこと、しっかり世話してやってちょうだいね」
あ、世話するって、つまりその人の分の家事をやるってことだったのか。
犬みたいに散歩つれてくとか、そういうことじゃなくて。
その人が家事をしなくていいように、あなたがやってねって、意味だったのか。
わたしこんなに、家事嫌いなのに

幸せのあり方に折り合いをつける結婚生活

第7回山内マリコ『かわいい結婚』 長続きする結婚生活とは、幸せのあり方に折り合いをつけること。
このまま家事をするだけで一生を終えるのかと絶望したひかりは、夫の小言を無視して以前の職場で働き始める。ありふれた物語なら、閉じた世界から一歩踏み出したひかりに新しいロマンスが訪れたりするものだ。しかし著者はそうせず、シニカルに攻める。

結局男を変えたとしても、やることは一緒なんだから。結婚して、一緒に住み、家事をする。毎日毎日洗濯して、掃除して、ごはんを作る。どうせ同じなら、わたしはまーくんがいいや。

この諦めにも似た発想が、結婚生活とは何かを如実に現している。ひかりは高みを目指さない。この幸せを維持していくことが幸せなんだと折り合いをつけたのだ。よりよい幸せを追い求め心をすり減らし続ける生き方よりも、幸せのあり方に折り合いをつけ楽に生きる方が、ひょっとすると正解といえるのかもしれない。

幸せのあり方を自分のアタマで考えて結論づけたひかりの生き方は、いびつだが美しい。

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執筆者:渕上聖也

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ライター・エディター。書評や映画評などの批評、インタビューを得意としています。ガイアックスソーシャルメディアラボのブログの中の人。コトバ使いにセンスのある女性が大好物です。人と積極的に会うことで日々のモチベーションを養っています。
ヘンテナプロジェクト:http://hentenna-project.com/

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

画像提供:PAKUTASO様 企画:渕上聖也・大野謙介 GIFアニメ制作:大野謙介

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