そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

第6回川村元気『億男』 お金は信用の代替物。いかに得るかより、いかに使うかに人間性が現れる。

      2015/06/09

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

「本を読む」という行為は自分との対話に他ならない。特にフィクション作品は、読む人の内に感性に基づく独自の解釈が形成されることで、得られるものが変わる。良い読書は人を変えるものなのだ。本を読み、自分が変わっていく快感。それを繰り返す内に、人はいつの間にか読書中毒になっていく…。本連載は、そんな読書中毒患者の皆と一緒に、より深く読書の森へ入り込んでいくことを楽しむために生まれたものである。

川村元気『億男』

第6回川村元気『億男』 お金は信用の代替物。いかに得るかより、いかに使うかに人間性が現れる。

第6回の書評は「億男」川村元気(著)です。

3億円で得られる幸せ

第6回川村元気『億男』 お金は信用の代替物。いかに得るかより、いかに使うかに人間性が現れる。

『もしも宝くじで3億円当たったら、きっと人生が大きく変わるだろう』

人生で1度くらい、なんなら何度となく、そう考えたことが誰しもあるはず。お金とは怖ろしいもので、この紙切れが持つ魔力に振り回されない人の方が稀かもしれない。

途方もないお金を手に入れる妄想に胸を膨らませる人は数知れず、しかしいざお金を手にしたら何がしたいかを語れる人は、意外なほどに少ないものだ。そんなことないって?じゃあ何がしたいかをリストにしてみてほしい。

・世界1周旅行がしたい。
・高級車がほしい。
・豪邸を建てたい。

案外そんなものじゃないだろうか。ひょっとすると宝くじを投資と捉えている人がいるかもしれないし、そういう人は具体的に何にお金を使いたいと考えているかもしれないが、正直なところ、とても抽象的な夢しか描けていないんじゃないかと思う。3億円で得られる幸せとは何か。お金は、あればあるほど幸せになれるものなのか。

この至上の命題に応えるのは、ベストセラーとなったデビュー小説「世界から猫が消えたなら」で多くの読者を泣かせてきた映画プロデューサー・川村元気。2作目となるこの「億男」は、宝くじで3億円を当てたしがない図書館司書が、お金と幸せの答えを求めて奔走する物語。

彼が見つけた答えとは何だったのだろうかーーー?

お金自身に正義も悪もない

第6回川村元気『億男』 お金は信用の代替物。いかに得るかより、いかに使うかに人間性が現れる。

世の中は人と人の信頼関係で動いている。お金はその潤滑油として機能しているだけで、それ自体はただの紙切れでしかないことはよく知られているだろう。日本人はよくお金を汚いものとして扱うが、お金自身に正義も悪もない。要は使う人次第で何にでも化けてしまうものなのだ。お金をどう稼ぐか、お金をどう使うか、そこに人間性が現れる。

ちょっと近所の本屋にでも行ってみてほしい。難しいならAmazonのマネー・財テク本カテゴリを開くのでもいい。そこで売っているのはどんな本か。ほとんどがお金の「稼ぎ方」について書かれた本ばかりじゃないだろうか?

世の中には「いかにお金を稼ぐか」に腐心する本やコンサルタントばかりが溢れ、「いかに使うか」を教えてくれない。お金持ちは山ほどいるが、憧れるお金の使い方をしているお金持ちには、とんと出会ったことがない。

稼いで得たお金とは、その人の信用価値を紙切れに換算しただけのもの。信用は目に見えないから、仕方なく世間に流通する貨幣にあてがっているだけのものだ。得るにも使うにも、その人の信用価値が試される。

お金を愛したり、嫌う必要はない。ただ向き合うだけでいい。

第6回川村元気『億男』 お金は信用の代替物。いかに得るかより、いかに使うかに人間性が現れる。

身に余るお金を手にしたとき、変わるのは自分だけではない。自分を取り巻く環境すらも変えてしまう。金持ちになった途端、友人や親戚が増えるとはよく言ったもの。お金の魔力は、自分にとって不要な人すらも呼び寄せてしまう。もしお金の大小に関わらず信用を持たれているならば、人は「人」についてくる。しかし、人よりもお金に信用価値があると思われていると、人は「お金」についてくる。

仲の良い友人とお金のせいで仲違いしてしまうことは、誰しもが経験していることだろう。お金は、その人の信用価値を測る試金石なのだ。自分の器も測れるし、自分のまわりにいる人が信用できる人であるかを測ることもできる。ポケットに入っているこの紙切れが、幸せを掴むための潤滑油となるか、人の心を喰い尽くす怪物となるかは自分次第。

幸せになるために全くお金がないといえば嘘になる。しかし、あればあるほど幸せになれるとは思えない。自分が幸せになるためにはいくら必要で、何にお金を使いたいのか。お金を愛するでもなく嫌うでもなく、ただお金と真剣に向き合うことで、幸せになる道は開けるもの。お金に翻弄され、お金との関係を見つめなおし、お金で道を違えながらも真理を見つけ出そうとする主人公が手にした「お金と幸せの答え」とは。ぜひ、その物語を楽しんでほしい。

『億男』はお金とは何かについて書かれた哲学書だった。本書を読み、今一度、お金について考えてみてはどうだろうか。

エピソード一覧へ

執筆者:渕上聖也

渕上聖也さんのアイコン
ライター・エディター。書評や映画評などの批評、インタビューを得意としています。ガイアックスソーシャルメディアラボのブログの中の人。コトバ使いにセンスのある女性が大好物です。人と積極的に会うことで日々のモチベーションを養っています。
ヘンテナプロジェクト:http://hentenna-project.com/

渕上聖也の読書中毒 -そうだ、帰りに本屋行こう。

画像提供:PAKUTASO様 企画:渕上聖也・大野謙介 GIFアニメ制作:大野謙介

 - クリエイター, 渕上聖也, 渕上聖也の読書中毒 , , , , ,

crem fbpage header
(いいね!で最新記事を毎日受け取れるみたいですよ)

あなたの好奇心を刺激する
コラム、ビジュアルビュース、GIFマンガ、海外映像作品紹介記事を毎日配信

more