【第2回】10年で2万個彫った対面はんこアーティスト・norioさんに聞いてみた 毎日ってどんな工夫で、もうちょっと幸せになりますか?
2015/06/12
誰もが1つは持っているであろう、名字や名前が彫られた「はんこ」。朱肉に達筆な書体もいいですが、もしも文字という情報以外であなたを表すとしたら、一体どんなはんこになるでしょう?はんこアーティストであるnorioさんは、オーダーメイドはんこの職人さん。40分という短い時間で、お客さんのイメージに合わせて図案を書き、名刺サイズのはんこを対面で彫り上げます。仕事、趣味、家族…さまざまなオーダーを彫り続けて、その数はなんと2万個に達するのではないか?とのこと。今回、はんこアーティストを始めて10年の節目を迎えるにあたって、これまでの道のりをお話頂きました。その中で感じたのは、norioさんご自身がとても幸せそうで、こちらまで幸せな気持ちになれること。どうすれば自分も相手も幸せに包まれるのか…長年に渡って対面にこだわってきたnorioさんだから見えてきた、幸せのひと工夫をお裾分けします。
(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)
クリエイター :norioはんこ
1981年生まれ。京都精華大学にて日本画を学ぶ。2005年より雑貨店やカフェなどをベースに“その場でオーダーを受けはんこを制作する”というスタイルで活動を始める。
はんこのnorio:http://www.noriohanko.com/
【第2回】10年で2万個彫った対面はんこアーティスト・norioさんに聞いてみた
毎日ってどんな工夫で、もうちょっと幸せになりますか?
4.自分の作る空気で、相手もその場も変わりますよ

−−対面ではんこを彫るとき、大切にしていることは何ですか?
norioさん(以下、敬称略)「今日はどんなはんこにしましょうかー?と始まって、作りたいイメージがすごい溢れ出てくる人と、そうでない人がいるんです。すぐに分からない人には、こっちがくだけた感じだと良くて、固い空気を作らないようにしています。そうでない人は困るかと思いきや、ものすごく頑張りたくなる。溢れる人には、もうちょっと絞りましょうかー?と整理していきます。」
−−自分の雰囲気ひとつで、相手が話しやすいような場を作ることができるんですね。
norio「お客さんの雰囲気を感じることが大切なんだなと。それが分かってきたのは、はんこを彫り始めてから3、4年目くらい。第一印象、だいたい会って5秒くらいの勝負です。」
−−直感で相手の人となりを感じ取って、それに自分の空気感を合わせてゆく。それに気が付く以前は?
norio「それまではたくさん下書きを書いていました。相手が作りたいはんこの案を、自分から出さなくてはいけないと思っていたから。でも、最初にすごく集中して話を聞くようになってから、それが下書きに凝縮されるようになりました。図案が1枚になるようになっていったんです。」
−−どれだけ相手の心の中を引き出せたかどうかが大切で、図案の数ではないと。
norio「あとは、この人が来るという情報もあまり知らない方がいい。リピーターの人が来てくれるのは嬉しいけれど、来てくれるのを知らない方がちゃんと聞ける。いつも初対面な気持ちで、その人に会った時の自分のインスピレーションを大切にしています。」
5.新しいチャレンジに、はんこが背中も押してくれますよ

−−対面ではんこを作ることに、こだわっていらっしゃる理由は?
norio「やっぱり顔を見て話を聞いて作るものと、文章と写真のみでネットから注文をもらうのでは温度も違うし、その人の心に残るものも違う。会って作ったものには、ストーリーや、自分も一緒に作ったという達成感みたいなものがあって。はんこそのものよりも、そっちの方が大事なのかもしれないですね。」
−−どんなお客さんが多いですか?
norio「自分で何かをやりたい!と思う人が来てくれることが多いです。ちょっと自分で何かしてみたい、と思う気持ちを実現できるので。私もそんなお客さんの気持ちに助けられています。」
−−いつも誰かの新しいチャレンジに寄り添う、そんなnorioさんに応援してもらえたら、頑張ろうって勇気が沸きます。
norio「何かを進めたい、やりたい!というときの転機にはんこを作る。そんな大事なものを一緒に作れるのがいいなって思っています。昔からはんこって、家や土地の証明や銀行口座を開くとか、何かの目的にあるもので。元々そういう重要な役割をはんこが持っているんだと。」
−−それをnorioさんが現代風にアレンジしている感じですね?
norio「うまくまとまったわー!(笑)」
6.不器用なことも、続けていれば個性になりますよ
−−どうすればオリジナリティは生まれるのでしょうか?作品のアルバムを見ると、どれもnorioさんっぽい温かさが伝わってきます。
norio「そーなんですよ…でも自分ではものすごい嫌なんですよ。学生の時とか、すごく器用な人とそうでない人がいて。私はそうでない人なんですけど、器用な人は全然違うような作風を毎回出せる。」
−−それは意外!ご自身のどういうところを不器用だと感じるのでしょう?
norio「これとこれは全然違う気持ちで作ったのに、‘やっぱりこれはnorioの作品だよね’と。私はそういうところが上手くなくて、鈍くささが出てしまう。もっとカッコ良く作れればいいのに。でも、器用じゃないところがある人は、オリジナリティが出やすいかも。」
−−七変化しないということが、逆にnorioさんらしさに。でも、同じようなはんこが並んでいるわけでもありません。
norio「私の場合はお客さんが変わるから、違うのものが出てきているのかもしれないです。お客さんは同い年くらいの人が多くて、はんこを始めた10年前から知り合いの人も、10年歳を重ねているわけです。彼氏ができて、結婚して、子供ができて…最近は家族のはんこを彫ることが多いですよ。」
−−norioさんと共にお客さんも歳を重ねる。そのライフステージによって、作られる作品が少しずつ変わってゆくのですね。
7.家族から受け継いだ気質を生かすといいですよ

−−アルバムには数え切れないくらい、沢山の図案。デザインのインスピレーションはどこから?
norio「あんまり本を読まなくて、いや読めなくて(笑)。旅行とかは結構行っていて、現地の布とかをよく見たりします。あと、電車の向かいの人が着ている服の柄を必死に覚えたり。おじさんのネクタイとか、持ち物の柄が多いかもしれません。そのカタチを写真のように焼き付けて覚えてゆく。」
−−布や服、小物など、頭の中に焼き付いたをパターンを再現していらっしゃるんですね。
norio「なんとなく調子がいい時には、この人はこんな絵が欲しいんだろうなという直感がはたらいて。自分の覚えたものが、自然と出てくる時があるんです。逆に絶不調の時は、お客さんの話からエネルギーをもらっています。助けられていることの方が多いですね。」
−−そうやってはんこを続けられる原動力はどこから来るのでしょう?
norio「家族かな?私、わりと1つのことに集中して取り組めるんです。父が一心不乱に仕事をし続けていたのを見てきたし、おばあちゃんは習字の先生。単調な作業の時もあるけれど、そういうのが向いているし、イケる。ワークショップでは、対面で1人につき40分彫って、1日にそれを12人…お客さんのほうが逆に心配してくれたりします。」
−−何かに集中してやり続ける気質はご家族ゆずりなんですね。
norio「海外旅行に行っても毎日彫っていた、なんてこともあったり。どこでも出来る仕事だからありがたいです。これからの時代、どこでもできるというのは、とてもいいことだと思う。」
だんだんと幸せな生活を作るパワーが溜まってきましたか?次回は最終回。《norioさん流・自分を追いつめないで好きなことを続ける心得》をお届けします。
(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)
クリエイター :norioはんこ
1981年生まれ。京都精華大学にて日本画を学ぶ。2005年より雑貨店やカフェなどをベースに“その場でオーダーを受けはんこを制作する”というスタイルで活動を始める。
はんこのnorio:http://www.noriohanko.com/

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