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【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について[水本博之インタビュー特集]

   

【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について[水本博之インタビュー特集]

映像作家である水本博之さんは、主にアニメーションやドキュメンタリー作品の監督・制作をされています。探検家・関野吉晴氏の手作りの船でインドネシアから沖縄までを航海するプロジェクトに同行し、撮影・監督した「縄文号とパクール号の航海」が2015年3月28日より公開されます。今回CREMでは作品に込められた思いや、水本監督の生い立ち、作品哲学について全3回で連載します。
(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について
【第2回】「怪獣映画からはじまるクリエーター人生」水本博之の今に至るまで
【第3回】「旅は無傷ではいられない」水本博之の創作哲学

クリエーター :水本博之

アニメーション作品を国内外で発表しつつ、探検家 関野吉晴のプロジェクトに参加。ドキュメンタリー映像の制作にも携わる。海のグレートジャーニーの序章的作品「僕らのカヌーができるまで」パート監督、 TV「新グレートジャーニー最終章 日本人の来た道 海上ルート4700キロ・完全版」パート演出など。最新作は「縄文号とパクール号の航海」。また長崎県大村市の市民が絵を描いて映画を作る「きおく きろく いま」も発表を控える。

第1回 映画「縄文号とパクール号の航海」について

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ーー 初回はこの春上映される映画についてお話を頂こうと思います。本プロジェクトは2008−2011年の4年間で800時間に渡る収録と伺っておりますが、ずばり見どころは?

 

水本監督(以下、敬称省略) まずは関野吉晴氏の企画した探検自体がすごいですよね。自然から砂鉄を集めて、砂鉄で斧を作って、その斧でインドネシアの森から木を切って船を造る。そしてその船で、現地から現地の人々と一緒に沖縄まで帰ってくるという…。

 

縄文号【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について[水本博之インタビュー特集]

水本博之 2015年 「縄文号とパクール号の航海」公式サイトより

ーー 関野氏は「グレートジャーニー」で知られる探険家で、エンジンを使わずに人力で南米からアフリカまで旅をしてきた方です。近代的な道具を使わないで、昔の旅人のように探検をするのがモットーな関野氏らしいアイデアですね。

 

水本 船といっても船体だけではなくて、縄や帆などのパーツも自然から調達することから始めました。作業は関野さんの教え子である武蔵野美術大学の学生たちがチームで作業分担したのですが、船に持ち込む保存食を作るメンバーもいましたよ。その様子は2010年に公開したドキュメンタリー映画「僕らのカヌーができるまで」で描かれています。

 

パクール号【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について[水本博之インタビュー特集]

水本博之 2015年 「縄文号とパクール号の航海」公式サイトより

ーー その過程だけで多くのドラマがありそうですが、メインテーマはどんなところにあるんでしょう?

 

水本 今回の作品は単なる探検の記録ではなく、旅の中で出会った事、自然と人間、人と人との関わり合いから見えた”気づき”を現代社会に投げかけるつもりで作っています。例えば、自然の恵みと脅威の狭間で旅をしているときに日本に戻ると何を感じるか、とか。あるいは、インドネシアの少数民のマンダール人と日本人は仕切の無い船の上で何ヶ月も一緒に暮らすわけだけど、彼らは年齢も価値観も宗教もバラバラな中で、不満とストレスを抱えつつ、どのようにコミュニケーションを成立させ、信頼を築いたかといったような。

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ーー 文化も宗教も違う人々とどう関わってゆけば良いのでしょうか?

 

水本 お互いの常識を主張して付き合っていくとうまく行かないんです。最初はイライラしてぶつかったりして。でもそういうことを繰り返しながら相手を尊重するように自分たちが変わってゆくことが必要で。

 

ーー マンダール人と日本人の違いは?

 

水本 そもそも宗教が違う。イスラム教だし。なので豚も食べられないし、料理の味付けや趣向だって違う。あとは、ある大事な船の出発を控えていた日に、船を作った人の家族が病気になって、縁起が悪いから出発を見送る、といったまじないじみたことがありました。そのような、呪術的な要素が生活の底に残っていることでしょうか。何かの儀式のために1日を費やすとか、僕達の考える効率的な時間の使い方が通用しないと思わされるような。日本ではみんな効率的に用事をスケジュール帳に詰め込んでゆくけれど、向こうでは明日のことは、まあ、決まってはいるけども、がちがちに縛られてはいない。ぼんやりしている。

 

ーー 航海を終えた現在も、インドネシアで取材を続けていらっしゃるそうですね。

 

水本 映画が終わっても人間関係は続きますし、映画や航海が終わったといってもそこで終わりじゃない。取材という理由をつけて遊びにいってます。

 

ーー 撮影中に東日本大震災がありましたが、本作品にも大きな影響を与えたのではないでしょうか?

 

水本 初めは、自然の中ですごい遊びをやっている感覚があって。不便な生活の中でも楽しいなと。 でもあの3.11を機に、今まで遊びだったのが伝えなくてはならない物語になった。自然から突きつけられた、重いもの。太古の人の移動を追体験していた僕らだから見えたものをちゃんと作品の中で輪郭を与えて残さねばならない。そう思って、だから僕自身の価値観も映画自体も変わったんです。

 

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ーー どのように価値感が変わったのでしょうか?

 

水本 被災地に入ったのは3.11から2週後でした。ガソリンがようやく手に入って、物資をたくさん積んで、関野さんは医者なので医療支援の目的もありました。津波という災害で、瓦礫が氾濫する中で、必要なのは水だったり米だったり薬だったり。お金が沢山あっても、立派な職業に就いていても自然の力の前に無力で、いざというときには皆同じだなあ、と。東京の住宅街を歩いていて、被災地の家々が目茶目茶に潰れている景色をふいに思い出すことがあります。街で暮らしていると「こうあるべき大人」としての基準、あるいは理想がいつもどこからか押し付けられる感じがするけれど、それって案外脆弱なもので、実際はいつ目の前の住宅が目茶目茶に潰れるような状況が訪れるかもわからないんです。

 

ーー 今回は冒険者でもなく、観客でもない視点から冒険を記録し見届けていらっしゃいますが…?

 

水本 すごく微妙な立場なんです。日常生活はほとんどクルーと一緒だから、彼らの目線には立てる。でも僕は自分というフィルターを通して、頭をこの作品を発表する場所・街と接続し続けなくてはいけない。彼らが何気なく話す冗談ひとつ取っても、それがどういう意味を持つのか見い出す努力をしながら撮る。常にアンテナを張り続けなければいけないんです。

 

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縄文号、そして大木ビヌワン、縄文号の先端はパクール号に比べると丸い様子がわかります。
「縄文号とパクール号の航海」公式サイトより

ーー 冒険者であるクルーと衝突することもありましたか?

 

水本 仲間、特に自主的に参加した若者二人は航海をするために行っているので、撮られることが目的ではないわけです。でも僕は突っ込んで撮っていかないと仕事にならないから、揉めることはありました。クルーにとって撮影者の僕は1番近い部外者で、イライラのはけ口になったり…。

 

ーー そんなモヤモヤした気持ちも、船から見える絶景の海と空に消えて行きそうですね。

 

水本 360度水平線が広がっていて、その上に満月と星空が広がっていたり。夜、雷が頭上で後ろから前へ向けて抜けていく光をみたり。あの風景は忘れないですね。

 

ーー 冒険だから大変なことは付き物だと思いますが…?

 

水本 基本的に辛いと思えば何でも辛いんですけれど(笑)初めは船酔いが辛かったです。普通に乗ると平気なんですが、カメラを回すので。でも、何かを失ったり致命的なことではないんです。トイレをするのも揺れたり水しぶきで大変なんですが、うわー!って感じで楽しい。こんなもんかな、しょうがないかなっていう感じで快適になっていく。

 

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ーー 逆に日本に帰ってからの方が窮屈だったのでは?

 

水本 天井があるところで寝るのが嫌だった。空を見上げて寝ていたので、息が詰まって寝れなかったです。海での生活はみんなが思っているより辛くなくて、帰ってきた当初は日本の方が辛かった。今ではまた慣れて、そうは思わなくなりましたけれど。

 

ーー 何事にも順応できることは、どんな場面でも必要な能力なのかもしれませんね。映画の制作に関してはどうでしたか?

 

水本 映画は自分の体験したことをすべて伝えることはできないんです。映像にはフレームがあるし、上映時間も限られている。風も吹かないし匂いもない。だからあの手この手を使って、今ある映画の条件で僕やクルーが体で感じた“気づき”を映像で表現する努力をします。

 

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ーー 映像を編集する中で、その技が発揮されるわけですね。

 

水本 今回も「自然が大事だよ」という簡単なパッケージングされた言葉なら誰でも言えるんです。それならすぐ映画はできちゃいます。そうではなくて、航海の意味や精神性、あるいは3.11で感じたことも、身体で感じているけれど言葉になっていない何かを切り捨てずに、いかに織り込むか。現地でも考えながら撮っていたけれど、ほとんど答えなんてでていない。映像を何度も何度も見返し、言葉を探し、自分の思考を反芻し続けます。

 

ーー 800時間から選ばれたシーンは、悩み抜かれた末の編集だと思いますが…?

 

水本 どんなに悲惨なことがあろうが無かろうが、その前後には日常の時間が流れているわけです。その日常の連続から何をどうやって削り出してゆくのかはものすごく大変な行程でした。今回は単純にあらすじを追うだけではなく、船上の日常こそが光り輝くような、スナップのようなものを意識して入れ込む努力をしました。中でも特に雨の中でシャンプーするシーンは好きですね。豪雨で船は大揺れで停滞している。一見それはつらい状況に見えるけれどもその雨は貴重な飲み水となり、海上で体中にこびりついた塩を洗うことのできる恵みの雨で、それを利用して生きる力の表れなんです。

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パクール号。船首は縄文号に比べると細い。6~7人の居住が可能です。
「縄文号とパクール号の航海」公式サイトより

ーー 来週(3月9日[金])は「【第2回】「怪獣映画からはじまるクリエーター人生」水本博之の今に至るまで」と題し、少年時代や自分に影響を与えた作品や出来事にフォーカスしてお送りします。

(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)

クリエーター :水本博之

水本博之さんのアイコン
アニメーション作品を国内外で発表しつつ、探検家 関野吉晴のプロジェクトに参加。ドキュメンタリー映像の制作にも携わる。海のグレートジャーニーの序章的作品「僕らのカヌーができるまで」パート監督、 TV「新グレートジャーニー最終章 日本人の来た道 海上ルート4700キロ・完全版」パート演出など。最新作は「縄文号とパクール号の航海」。また長崎県大村市の市民が絵を描いて映画を作る「きおく きろく いま」も発表を控える。

【関連リンク】
縄文号とパクール号の航海公式サイト:http://jomon-pakur.info/index.html

■公開日時
ポレポレ東中野で公開
3月 28 日~4月 10 日 12:30 / 15:30
4月 11 日~ 上映時間未定
*3月 28 日 12:30 の回は、本作主役で探検家の関野吉晴および、関係者舞台挨拶

【第1回】 探検ドキュメンタリー映画「縄文号とパクール号の航海」について[水本博之インタビュー特集]

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