そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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【第1回】どうすれば、より必要とされる企業のデザイナーになれるのか?

   

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どのようにすれば創造的で新しいアイデアを出し続けられるのか?新しい製品やサービスを生み出す人にとっては、いつも頭を悩ませる永遠の課題。でも、そんな皆さんに朗報です。今、マーケティングの世界では、そのようなアイデアを生み出すための方法が理論化されつつあります。

公立鳥取環境大学の経営学部でマーケティングを教える磯野誠先生は、新製品アイデア開発の専門家。横河電機のインダストリアルデザイナー、P&Gのデザインマネジャを経て研究者に。現在は、創造性の高いアイデアを出す方法について体系的な理論化を進めていらっしゃいます。

今回は、ご自身の経験から見えてきたデザイナーとデザインマネージャに求められる資質や最新の研究成果に注目してお話を伺い、全3回で内容をお届けします。

(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)

クリエイター :磯野誠(研究者)

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1966年愛知県生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。神戸大学大学院経営学研究専門職学位課程修了、同博士課程後期過程終了。博士(商学)。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン デザインマネジャ等を経て、現在、公立鳥取環境大学経営学部准教授。専門は新製品開発、マーケティング。著書に「新商品コンセプト開発におけるデザインの役割」(2014年、丸善出版)「アイデアの意図と魅力を考える」(2013年、ふくろう出版)など。
・磯野誠 研究室:http://www.makotoisono.com/

【第1回】どうすれば、より必要とされる企業のデザイナーになれるのか?

1.企業の経営のために、デザインを考える
2.経営学やマーケティング理論にも目を向ける
3.積極的に消費者と対面し、消費者が求める真実を知る

1.企業の経営のために、デザインを考える

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デザイナー、デザインマネジャ、研究者という3つの職業を経験されてきた磯野先生。初回はデザイナーとしてのご経験から、どのような意識でデザインと向き合えば、より必要とされるデザイナーになれるのかを伺います。

磯野先生(以下、敬称略)「私は千葉大で工学系のデザインを学んだ後、横河電機でインダストリアルデザインに携わっていました。その後に入社したP&Gで、文系のデザインとデザインマネジメントに触れた。それは今まで学んだこととは大分違った、デザインの考え方でした。」

−−同じデザインでも、そんなに大きく違うのですね。それはどのような考え方の違いだったのでしょう?

磯野「P&Gでは、文系のデザインを実感しました。日本のデザインの多くは理系か芸術系文系のデザインはすごく少ない。理系のデザインは、人間工学や材料設計、ユーザーインターフェースなどの工学的なデザイン。もともとはバウハウスから来ているシステムで、千葉大の教育プログラムもその延長線上にありました。」

バウハウス=20世紀初頭に設立され、近代デザインと建築に大きな影響を与えた総合的な芸術学校

−−では、文系のデザインはどんな特徴があるのでしょうか?

磯野「経営の延長上にデザインがあるんです。企業のビジネスの中でいかにデザインを活用するかという、デザインマネジメントの考え方がベースにある。P&Gではデザイン部のトップのみがデザインマネジメントをやっているのではなくて、デザイナー全員が経営のためにデザインを行うという考え方が徹底されていました。」

−−デザイナーの役割は、単にデザインをするだけではなかったんですね。

磯野「当時の私には、経営のためにデザインを考えるという目があまり無かった。工学的な観点からユーザーのためのデザインを考える、それが自分の中のデザイン理論だったんです。もちろんそれも大事だと思いますが、P&Gではデザインマネジャという役割を担うことになった。P&Gでのデザインとは、あくまでも経営のためのデザインです。だからまず、経営学やマーケティングを勉強しないと、と思ったんです。」

2.経営学やマーケティング理論にも目を向ける

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−−マーケティングについては、P&Gでのお仕事と平行しながら神戸大学の大学院(経営学研究科)で学ばれたそうですね。

磯野「2003年から約5年間、ビジネススクールから博士後期課程へ。夜間や週末の時間を利用して、P&Gの仕事をしながら神戸大での勉強を両立させていました。経営のためのデザインを考えるためには、経営学やマーケティングを学ぶべきと思ったので。実際に経営学を学びはじめて、それまでのデザインをしながら抱えていたいろんな疑問が、経営学でどんどん解けることを実感しました。」

−−経営学は、デザインに対してどうアプローチできるのでしょう?

磯野「デザイン学ではユーザーの理解方法として、ユーザーの観察を強調しますが、往々にして、それだけで終わることがある。しかし経営学の中のマーケティングでは、消費者観察もあれば、インタビューもある。さらにアンケート調査や購買行動記録などの定量調査もする。どういう場合にはどういう調査をすべきか、それはどういう哲学に基づくのか、といったユーザーの理解方法だけでも非常に体系だった方法論を持っている。そういった方法論にたってユーザーなり消費者なりを理解するほうが、より効果的。消費者市場のセグメンテーションという考え方も、デザイン学ではあまり勉強しないように思えます。そういうことが経営学を学んで初めて分かった。」

−−自分のセンスや才能に頼りすぎず、デザイナーも経営学の体系化されたセオリーを学ぶ必要があると。

磯野「デザイナーはもっと理論的で、戦略的になってゆくべきじゃないかと思うんです。売れる製品があると、世の中はこれは誰がデザインしたのか?となりますよね。確かに「誰が」も重要ですが、「どうやって」というプロセスについての理論に関心があります。良いデザインがあったとして、そのデザインをした人に注目するのではなく、そのデザインをした人が辿ったデザインプロセスに注目する。そのプロセスを学べば、その人でなく他の人でも、同じように良いデザインができるかもしれない。あるいは、たまたまそのデザインがその時の消費者のニーズや嗜好に合っていただけかもしれないということが分析できる。」

−−良いデザインを生み出す方法が体系化されれば、デザイナー個人のセンスや才能に頼り過ぎることもなくなるわけですね。

3.積極的に消費者と対面し、消費者が求める真実を知る

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−−その他に、マーケティングが役に立つ内容は?

磯野消費者と対面し、消費者を理解するという姿勢です。アートは自分の表現のため、デザインはユーザーのため、と言われたりしますが、マーケティングに比べればデザインは遥かに自分の表現のためにあるように思えます。マーケティングの考え方では、徹底的に消費者のことを考え抜く。その上でものを生み出そうとする。」

−−それに対して、デザイナーはどのような傾向が?

磯野「対してデザイナーはユーザーのためのものを作るとしつつも、実際にはあまりユーザーや消費者と対面しようとしないように思えます。例えばグループインタビューの消費者調査。私の経験では、あまり参加したがらないし、そこで得られた結果を参考にしようとしないデザイナーが多い印象です。もちろん消費者と積極的に対面しようとし、消費者の評価を積極的に聞こうとするデザイナーもいます。私がかつての調査でお会いした中でも、日用品や飲料製品のデザインをされているデザイナーやデザインマネジャの多くは、そうでした。」

−−実際に使ってもらう人の話が聞けないと、出来上がった製品にも消費者との距離感が出てしまいそうです。

磯野「デザイナーがプロトタイプを作って、消費者に評価してもらう時があります。モニタールームの裏側で、ダメ出しを受けたりして。これダサい、カッコ悪いよね、これ誰がデザインしたの?センスを疑うわ、とか言われてしまうわけだけれど…。でも、そういうものの中に真実がある。自分や自分のチームが一生懸命作ったものをボロクソに言われると、傷つくけれど。」

−−そういう批判も積極的に受け入れる貪欲さも、デザイナーにとって大切なことなのですね。

磯野そういうのを嫌がるデザイナーも多い。偏見かもしれないですが。あまり積極的に、ぜひ行きましょうとならないんです。あるいは消費者の言うことは信用すべきでないとか。それで消費者に言われたことに傷ついたり反発心も出るけれど、はっきりと分かりますよ。自分が良いと思ったものと消費者が求めるものの違いが。そういった発見は常にありました。」

−−消費者へのインタビューはどんな時に役に立ちましたか

磯野名門のデザイン会社によるデザインは、なにか無条件に受け入れなきゃならなくて、それを批判しちゃいけない雰囲気があることがあります。社内の開発チームも、そういったデザイナーによるデザインだから、それはいいはずだ、と思い込もうとすることがあります。しかしそこで消費者調査を入れると、気が付かされることも多い。モニタールームでは消費者は容赦しない。名門のデザインであろうと、彼らの感覚で目の前のデザイン案に対して、思ったままのことを言ってくれる。もちろん消費者が言ったことそのまま受け入れるのではなくて、その解釈が重要ですが。」

−−誰がデザインしたのか、という情報によって評価にバイアスがかかることもあるんですね。

磯野「デザイナーを含めた開発者が生きている世界や文化と、消費者が生きている世界や文化は違う。消費者にもいろいろいて、いろいろな世界や文化がある。何がよくて何が悪いか、何が美しくて何が醜いと感じるかは、その人が生きる世界や文化による。だから結局、消費者のことを実際に調査しないと、彼らの評価基準が分からないんです。」

第1回目のテーマは【どうすれば、より必要とされる企業のデザイナーになれるのか?】でした。企業のデザインは経営のためにあるもの。マーケティング理論などの経営学にも目を向けて、消費者の求めるものを分析する。このように、デザイナーも戦略的になってゆくべきだということが、磯野先生のお話から分かりました。次回は、外資系企業でのデザインマネジャとしてのご経験から、どうすれば世界で活躍できるデザインマネジャになれるのか?をお送りします。

(執筆:CREM編集部 丸山亜由美)

クリエイター :磯野誠(研究者)

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1966年愛知県生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業。神戸大学大学院経営学研究専門職学位課程修了、同博士課程後期過程終了。博士(商学)。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン デザインマネジャ等を経て、現在、公立鳥取環境大学経営学部准教授。専門は新製品開発、マーケティング。著書に「新商品コンセプト開発におけるデザインの役割」(2014年、丸善出版)「アイデアの意図と魅力を考える」(2013年、ふくろう出版)など。
・磯野誠 研究室:http://www.makotoisono.com/

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