【第3回】音楽と映像のプロであるために。[井上涼x奥下和彦 人気クリエイター対談]
クリエイター:井上涼(写真左)
「楽しみ」をテーマに映像、イラスト、漫画、パフォーマンスなど、様々な制作活動を行うアーティスト。作品制作の殆ど(作曲、作詞、歌、撮影、台詞、イラスト、編集など)を1人でこなし、現在NHK Eテレで、世界の「びじゅつ」を自作の歌とアニメで紹介する番組「びじゅチューン!」が放送中である。2005年には自身がゲイであることを作品を通してカミングアウトしており、「やる気あり美」のメンバーとして、世の中とLGBTとの接点を作るための活動も行っている。
赤ずきんと健康:http://www.youtube.com/watch?v=FI452L8bpkw
びじゅチューン!:http://www.nhk.or.jp/bijutsu/bijutune
やる気あり美:http://yaruki-arimi.com
ペネロペの星(ブログ):http://penerop963.exblog.jp
Twitter:http://twitter.com/kitsutsukijanai
クリエイター:奥下和彦(写真右)
金沢美術工芸大学視覚デザイン科、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻卒業。クリエイターズマネージメントFOGHORN所属。2009年に制作した「赤い糸」が数々のコンペに入賞し、世界最大のデジタルフィルムフェスティバル「RESFest」のファウンダーJonathan WellsのキュレーションによりTED2010 Long Beach他でも同作品が上映されネット上の話題をさらう。更に2011年よりTV朝日の「報道ステーション」のオープニング映像を担当しグッドデザイン賞を受賞。以後多くのTV-CM、MUSIC VIDEO、イラストレーション、絵画の展示販売、そしてライブペインティングを手掛け、現在に至る。
公式サイト:http://okushitakazuhiko.com
ブログ:http://okushita-blog.tumblr.com
Twitter:http://twitter.com/kazzroad01
学生時代と今とを比べて制作に変化はありましたか?
奥下 本当に変わりましたよね。インターネットが出来たことによって、ウェブで公開したものを色んな方に見ていただけるようになって。こういうのって今までは難しかったじゃないですか。今までだと、ギャラリーに展示して、っていう感じで。それが一気に海外の方に届くようになったりと、制作が開かれた世界になりましたよね。
井上 さっきのもTwitterだもんね。
奥下 ですね。クリエイターにとって、チャンスが増えたなって思います。すごく真面目なこと言っちゃいましたけど。笑
井上 たまにはそういうのがないと。笑
奥下 井上さんはなにかありますか?
井上 でも、わたしは広がりというか、大学生の頃は自分の周りの人たちに向けて作っていたものが、テレビとかに出してもらっているっていうのもあるんですけども、今はわたしが知らない人たちからも反応が返ってくるようになって。もちろん面と向かっての意見を頂ける機会も増えましたし、アンケートのはがきであったりだとか、そういう知らない人まで作品の広がりができましたよね。
奥下 そうですね。知らない人ともつながれることが多いですよね。井上さん、街で、「あ、井上さんだ!」みたいなのありませんか?
井上 うーん、ごくたまーにあるかな。社会生活につかれていて、癒やしを求めているていう、20代後半のOLさんが多いですね。
奥下 『YADOKARI』って作品はあれ、OLさんのことですよね?
井上 そうですね。会社に勤めていた数年の経験で。自分の体験から日本中の人が一緒の事を考えそうだなって思って作った作品ですね。
奥下 良かった、当たってた!笑 井上さんの作品は共感できるものが多いですよね。
井上 なんか「疲れ」っていうのがすごい規模で日本にはあるんだと思うんです。
奥下 あと、僕の奥さんだと、『HATOYA』とかもすごい好きですね。笑
井上 それはなんでですかね?
奥下 「ふう~ん」っていう困っている所の音にすごいハマっているって言ってましたね。笑
井上 すごい!そんなピンポイントで?笑
奥下 あと、僕は『さようなら忍者A』もすごい好きですね。奥さんと一緒によく歌ったりしてます。
井上 へえー。
奥下 すごい耳に残りますよね、井上さんの歌って。びじゅチューン!だと、『委員長はビーナス』の、「生まれたままのぉ〜」っていうエコーがかかる所とかも。笑 あれみた時はふたりで、ドーって!笑
奥下 僕も、曲を作ったりしてるんですけど、僕が作る必要がないなというか。映像と音楽の結びつきが結構弱くて、僕である必要があるのかなあ、っていうのがあるんですけど。けど、井上さんの作品は、井上さんが作曲して、歌って、アニメを作るっていうことに、井上さんにしか出来ないことをやっているなあってすごく感じていて。そのメッセージを伝えるためには、歌わなくちゃいけないんだ、曲を作って、アニメもつくらなくちゃいけないんだ、って。すごいまとまりを持っているなと思いまして。井上さんは井上さんにしか出来ないことをやっているんだなあ、ってのは昔から思ってましたね。
井上 ほえー。笑
奥下 そういう意味ですごく羨ましいな、って思っていました。井上さんが一人で作曲まで始めた理由ってあるんですか?
井上 うーん、人に頼みたいけど頼むと気を使うから、自分でやってみようってのが一番の理由ですね。当時は大学生だったし、周りに作曲できる人なんてのもいませんし。でも、PVとかには憧れがあって。どうにかやってみたいからどうにかやった、っていう感じですかね。それができる設備もそんなに高価じゃなく手に入り始めた時期だったのかもしれない。
奥下 他の芸大とかは音楽学部が一緒にあるんですけど、金美にはそれがなくって。僕達だけでやるしかなかった、ってのはありましたよね。
井上 そう。だから、やむにやまれず。
奥下 後輩とか見てても、みんな自分たちで作ってますよね。けど、歌ってる人は見たことないですね。笑 僕も井上さんの影響を受けて、うたってみた事があるんですけど。
井上 それ、見たことあるかも知れない。
奥下 まじですか!?笑 けど、それを奥さんに聴かせたらすっごい爆笑されるんです。結構真面目に作ったんですけど。笑 それで僕はやめとこうかなって。笑 だから、井上さんは「歌う」ってところにジャンプするってのがすごいなあって。歌ったもので作品として残っているのは「ゲイの歌」が初めてですか?
井上 うーん、かなあ。
奥下 そうなんすね。 歌というか、作曲の勉強ってされました?
井上 それがあんまりしていなくって。高校生の頃に吹奏楽部だったんですけど、
奥下 そうなんすね!
井上 その時に音楽ってこういう構成で出来てるんだなあってのを体感したから、それを全部用意したら曲っぽくなるのかなって。
奥下 コード進行ってのがあるんだとか?
井上 コード進行とか未だによくわかんないですね。
奥下 まあ僕もわからないですけど。笑 もともとなにか楽器は習っていたんですか?
井上 ちょこっ、ちょこって、エレクトーンをやって、バイオリンをやって、吹奏楽をやって。どれもあんまり続かなかったんですけど。ほんとに半端な知識で今までやってきましたね。母親が音楽の先生だったんで、何かしらで音楽をやらせたかったみたいで。
奥下 あー、なるほど。じゃあわからないこととかをお母さんに聞いたりとか?
井上 いやー、そういうことはあんまりなかったですね。もう多分親は私の音楽の道は諦めていたみたいで。中学ぐらいでアニメオタクになった時点で、「ああ、この子はもう音楽の道はないな」って思ったらしいです。
奥下 アニメ好きだったんですか?
井上 すごい好きでしたね。けど、今はオタクを名乗れるほどではないです。
奥下 どんなのが好きだったんですか?
井上 でも、普通にエヴァンゲリオンとかでしたね。
制作で大切にしていることは?
井上 今、音のシンクロみたいなみたいな話を奥下くんがしてくれましたけど、自分で大事にしているのは、「映像に当てて気持ちいい音」と、「音に当てて気持ちいい映像」ですかね。わたしは両方自分でやっているので行き来できるんですよね。映像から音に合わせて、ここで花が咲くから花が咲くような音を入れようとか、ここで花が咲いているような音が鳴っているから花を咲かせようだとか。それでまたちょっと違ったってなったら、音に戻ったり映像に戻ったり、交換ができるので。
奥下 どっちかを作り終わってからっていう訳ではないんですね。
井上 ほとんどは同時か、ややどっちかが早いかって感じですね。でも初めは音楽が先の作品が多いと思います。
奥下 両方歩み寄りつつ?
井上 そうですね。アニメって枚数描くのが大変なんですけど、PVとかって音と合ってたら枚数書かなくても時間持つことないですか?
奥下 それはありますよね。気持ちいいというか。音とシンクロするだけでかなり違って見えますよね。
井上 そうそうそう。だから、止め絵一枚だったとしても、それが音と合ってれば数秒持つんです。だからそういうのを上手く使ってできるだけ枚数書かなくてもいいように。笑
奥下 なるほど。勉強になります。笑
井上 奥下は枚数どのくらい?
奥下 僕の場合止まっちゃうと…
井上 そうだよね、止まれないスタイルだもんね。笑
奥下 はい。なので、ひたすら書くしか無いって感じですね。
井上 PC上で書くの?
奥下 そうですね。ロトスコープ使って、実写を基にしてやっているんで、パソコン上で制作することが多いですね。けど最近、全部印刷して紙に描いたら、すごい気持良くて!笑
井上 何をプリントしたの?
奥下 実写を全部プリントアウトして、鉛筆でトレースしてってやったらすごい気持ち良かったです!
井上 へえー。
奥下 あれ、井上さんは、作画は紙で書きます?
井上 うん、紙で。
奥下 そうなんですね。僕はペンタブだと「鉛筆とちょっと違うな」ってなっちゃって。
井上 多分追求すれば鉛筆と同じように描けるんでしょうけど。そういう人いっぱいいるし。でもまだ、シャーペンのほうが自分には合ってるなって思いますね。
奥下 デッサンとか、たまにしたくなりません?
井上 ならなーい。笑
奥下 え、ならないんですか?笑 僕たまに石膏デッサンとかしたくなって。
井上 へえー、なんで?
奥下 例えばクロッキーとかやった時に、ちょっと形取れなくなってるなとか、そういう感覚の古さを更新したくて。
井上 へえー。感覚が衰えていく?
奥下 そうですね。何にしてもですけど、やっぱり使わなくなるスキルってありますよね。特に僕や井上さんは絵を描くスキルはあると思うので、プロとしてそこの衰えはなくしたいですね。美術予備校を卒業した直後くらいの画力はキープしたいです。
井上 あ、そこが基準なんや笑
奥下 なんと無く。笑 そのくらいはキープしたいかなあ。やっぱり絵に関してはプロでいたいと思っていて。
なんか、すごい脇道にそれた気が。笑
――第4回に続く

クリエイター:井上涼(写真左)
「楽しみ」をテーマに映像、イラスト、漫画、パフォーマンスなど、様々な制作活動を行うアーティスト。作品制作の殆ど(作曲、作詞、歌、撮影、台詞、イラスト、編集など)を1人でこなし、現在NHK Eテレで、世界の「びじゅつ」を自作の歌とアニメで紹介する番組「びじゅチューン!」が放送中である。2005年には自身がゲイであることを作品を通してカミングアウトしており、「やる気あり美」のメンバーとして、世の中とLGBTとの接点を作るための活動も行っている。
赤ずきんと健康:http://www.youtube.com/watch?v=FI452L8bpkw
びじゅチューン!:http://www.nhk.or.jp/bijutsu/bijutune
やる気あり美:http://yaruki-arimi.com
ペネロペの星(ブログ):http://penerop963.exblog.jp
Twitter:http://twitter.com/kitsutsukijanai
クリエイター:奥下和彦(写真右)
金沢美術工芸大学視覚デザイン科、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻卒業。クリエイターズマネージメントFOGHORN所属。2009年に制作した「赤い糸」が数々のコンペに入賞し、世界最大のデジタルフィルムフェスティバル「RESFest」のファウンダーJonathan WellsのキュレーションによりTED2010 Long Beach他でも同作品が上映されネット上の話題をさらう。更に2011年よりTV朝日の「報道ステーション」のオープニング映像を担当しグッドデザイン賞を受賞。以後多くのTV-CM、MUSIC VIDEO、イラストレーション、絵画の展示販売、そしてライブペインティングを手掛け、現在に至る。
公式サイト:http://okushitakazuhiko.com
ブログ:http://okushita-blog.tumblr.com
Twitter:http://twitter.com/kazzroad01
(執筆:CREM編集部 篠宮航太)

(いいね!で最新記事を毎日受け取れるみたいですよ)
あなたの好奇心を刺激する
コラム、ビジュアルビュース、GIFマンガ、海外映像作品紹介記事を毎日配信