そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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今、美大生が会いたい 僕らの師匠【現代アーティスト:中山 晃子】

      2016/11/24

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現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登壇いただいたのは、絵の具や金属で絶えず移り変わるライブペインティングを表現する現代アーティスト、中山晃子さんです。
(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華)

中山 晃子 (Akiko Nakayama):現代アーティスト

画家。液体から固体までさまざまな材料を相互に反応させて絵を描く「Alive Painting」というパフォーマンスを行う。科学的、物理的な法則に基づくあらゆる現象や、現れる色彩を、生物や関係性のメタファーとして作品の中に 生き生きと描く。ソロでは音を「透明な絵の具」として扱い、絵を描くことによって空間や感情に触れる。近年では屋外展示、インスタレーションも精力的に行う。TEDxHaneda でのプレゼンテーション、Audiovisual Media festival 2015 (台湾) 、Ars Electronica Fes 2016 (オーストリア)等、国内外問わず描いている。

ホームページ:http://akiko.co.jp

――まず作品の制作スパンについて教えてください。中山さんは1つの展示やパフォーマンスを制作するのに、いつもどれくらいの期間をかけていらっしゃるのでしょうか?

展示やパフォーマンスのお話をいただくタイミングがイベントによってまちまちですので、いつもこれくらい、というのはありません。展示が決まったときには、ボールを投げるようなイメージで準備を進めています。

例えば1週間後に本番があるとしたら、その本番の日に集中力が気持ち良く着地するようコントロールして思考を投げるイメージと言いますか・・・。

なので、直前にパフォーマンスが決まった場合は短くて速い意識を投げますし、逆に半年前からオファーを頂いていた場合は飛距離を長く高く投げるイメージで制作しています。

――なるほど、では中山さんはゴールから逆算して制作スケジュールを組み立てていらっしゃるんですね。

そうかもしれません。あとは、自分にとって必要だと思う実験や制作は、進んで耕してゆきます。自分の進みたい道を歩んでいけるよう、種まきをしていく感覚ですね。

――自分がやりたいこと、できることを予めたくさんストックし、その中から随時必要なものを取り出していくという感じでしょうか?。

はい、そうです。自分の中にいくつか箱があって、その中にあるものを眺めながら、今回は何を検証しようかと決めていくことが多いですね。そういった自分の興味と検証のストックを増やすためにもレジデンス(※)への参加は私にとって大切なことです。

※レジデンス:アーティスト・イン・レジデンスの略。国内外から一定期間アーティストを招いて、滞在中の活動を支援する事業、イベント。

例えば、筑波で行われていたTSUKUBA INTERNATIONAL ARTIST IN RESIDENCEというレジデンスがそうでした。このときは、もともと屋外展示をするということが決まっていましたので、機材を使う、という縛りから自分の作品を解放する制作期間となりました。カメラやプロジェクター、絵筆やインクを使わなかったとしても、私はどんな表現ができるのか?と問いを立てている時期でしたので、とても良い機会になりました。

――敢えて何かしらの縛りを加えることで、新しい作品のインスピレーションを生み出していらっしゃるんですね。

そうですね。今思えば、美術家になる前から、いろいろなルールに居心地の悪さを感じつつも、どうすればその縛りとも遊びながら居場所をつくれるのか、若いなりに模索しながら生活していた気がします。

例えば高校生の頃、自分の出席日数はしっかり数えていて、あと何回は休んでも大丈夫だから今日は江ノ島に行こう、という感じで学生時代を過ごしていました。そう思うと、当時からわりと逆算して物事を考えていたのかもしれませんね。

――すごい学生時代ですね(笑)。でもそういった中山さんの自由なスタイルが、作品にも影響を与えているような気がします。

そうですね、大分影響していると思います。自分にとって生きやすく生きるためにはどうやって生活すればいいんだろう、と考えながら過ごしているので、そういった性分が作品にも出ている気がします。

本当は自分自身の性分を作品には反映させないよう制作しているつもりだったんですが、大分色濃く出ていますね(笑)。

――また違った視点で中山さんの作品を見られそうです(笑)。中山さんの作品には、私達の固定観念を壊すようなダイナミックさやエネルギーが感じられますよね。

ありがとうございます(笑)。私が今のパフォーマンス・スタイルになったのは、その場の瞬発力を大事にしているからなんです。固定観念が堅くあればあるほど、それが壊れた時に気持ちがいいと思います。

私のバックグラウンドにあるのは絵画なので、油絵や水彩画など、一通り通ってきましたが、絵の具を定着させて完成という作品形態がどうも不向きでした。今この瞬間、目の前で起きている色彩の移ろいを作品にしたい、という想いがありますが、絵の具が定着するのを待てない、というのもあります。そういった私の堪え性のない性格と好奇心とが相まって、流動するパフォーマンス・スタイルに繋がったんだと思います。

――そうだったんですね!今のお話を伺っていて、中山さんはご自分の性格や「好き」をよく理解した上で、自分の望む方向に作品を向けていらっしゃるんだなと思いました。自分を知り、それを作品や生き方に反映させるコツがあれば、ぜひ教えていただきたいです。

うーん、私も自分のことが分かっているわけではないですけどね(笑)。でも自分を知るためには、まず自分の心と身体とが流れやすい方向を理解することだと思います。

例えば自然を見てみると、木の根や稲妻、河など、エネルギーを流し、伝えるものの形ってとても綺麗ですよね。それと同じで、人間も自分のエネルギーを効率的に流すことができる方向に動けば、気持ちのいい生き方にも繋がるし、一番遠くまで流れてゆけると思うんです。だから自分に正直になって、一番自然体で流れてゆける道を探すことが大事なのかもしれません。

あとは、誰もがそうだと思いますが、人と話しているときに自分を知ることが多いですね。

例えば、海外のレジデンスやライブでお客さんや他のアーティストと雑談していると、ふとしたところに「日本人」へのイメージや思い込みを感じるときがあるんですね。そういった場面で、「日本人」という特徴を使わずに自分のパーソナリティを伝えるにはどうしたらいいのかって考えるようになりました。繰り返し直面するうちに段々、「自分はこういう言葉で表現するんだ」とか「こういう思考回路なんだ」っていうことが客観的に分かってきました。だから人と話すのは、自分を知るためにもとても良いことだと思います。

――なるほど、ぜひ参考にさせていただきます。中山さんはこれまで、本当に様々な国でご活躍されていますが、海外で活動するようになったきっかけはなんだったのでしょう?

ここ2年ぐらいの間に、海外で活動する理由を見つけ始めたからでしょうか。

人間が色を認識するためには3つの要素が影響しています。
1つ目は物質の色。例えば「赤いリンゴ」の「赤」ですね。2つ目は光。光の当たり方によって「赤いリンゴ」の見え方は変わりますよね。そして3つ目が受け取る人の認識によるもの、つまり「赤いリンゴ」という情報をキャッチする人の目と脳の状態、あたりまえのことではありますが、この3つから人間は赤いリンゴを認識しているんですね。

その3要素について考えてみたときに、日本という環境の中だけで活動していると、その3つの要素の幅がまだまだ狭いことに気づいたんです。他の環境へ行くことによって、ものの色も太陽の位置も変わってくるし、その人が育ってきた環境も違うので、色彩の持つ意味も変わってくる。つまり、この3要素とも変えることができるんです。そこで、この3要素をそれぞれ1つずつ変えたら絵がどう変わっていくのか試してみたくなったというのが、海外での活動に興味をもった最初のきっかけかもしれません。

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KOUMARIA RESIDENCY 2016 / Greece, sparta ギリシャの砂で絵の具を制作。

――ということは、海外へは新しい実験をしに行っているという感覚なんですね。

そうですね。様々な国の方々から反応をいただいて、日々新しい発見をしていくのはとても楽しいです。育った環境も経験も違うので、色や形の見え方は当然変わってきますし、その体験を表現する言葉も様々なので、1つ1つ返ってくる反応がとても面白いです。

あとこれは実際に海外で描いてきて、気がついたことですが、認識できる色の幅は言語によっても大きく変わってくるみたいです。つまり「群青色」という言葉があるから群青色を認識できるわけで、言葉にされていない色があった場合、人はそれを頭の中で編集するようです。

――それはすごく面白い発見ですね!色の捉え方以外にも日本と海外で何か異なることはありましたか?

絵も音も同時に用いる私のパフォーマンスに関して、日本よりも海外のほうが反応はいい気がします。

これも恐らく言葉の問題だと思うんですが、海外では既に「オーディオビジュアル」という単語が浸透していて、パフォーマンスしやすい土壌が形成されているんですね。だから私のパフォーマンスも一つの美術表現としてすぐに受け止めてもらえた実感があります。

――なるほど、海外では中山さんの手がけるアートジャンルが既に確立されているんですね。アートに対する考え方や捉え方という点では、確かに日本と海外で大きな違いがありそうです。

そうですね。だからこそ、お客さんのなかで私の作品がどのような着地の仕方をしているのかというのを聞いていると、とても面白いです。ある程度はタイトルや説明文に考えを託して、導くのですが、自分では想像もしていなかった解釈などに出会えるのはやはり楽しく、醍醐味です。

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KOUMARIA RESIDENCY 2016 / Greece, sparta 毎晩セッションをしながら表現を模索。

――中山さんがイベントなどで他のアーティストの方と一緒にパフォーマンスする際、大事にしていること、気を付けていることはありますか?

色彩同士が響き合うように、展示もパフォーマンスも組み合わせ次第でより良いものになるので、それぞれの力を発揮しながらも、全体で見たときも効果的な時間になるのか、流れを考えて、時に使う色や音をその場で変えながらパフォーマンスを組み立てるようにしています。

例えば、自分の1つ前に出るアーティストさんが切り替えの早い映像を使う方であれば、私はとてもゆっくりした絵にしてみるとか。なので、展示順やストーリーの動線なども進んで感じ取って、楽しむようにしています。

――アーティスト同士、良いところを補い合いながら一つのイベントを作り上げているという感覚なんですね。

はい、そうだと思います。もちろん自分の表現を発揮するのは大前提ですが、お互いに補い合いつつも全体として飛躍できるようなイベントが一番、アーティストにとってもお客さんにとっても良い時間になるのではと思っています。

――以前Ars Electronica Festival 2016(以下、アルス)でオーケストラとコラボレーションした中山さんのパフォーマンスを拝見させて頂いたんですが、言い知れない一体感からくるダイナミックなステージにとても感動しました。あのステージは、お互いに相手を思いやりながらパフォーマンスすることで生み出されていたんですね。

ありがとうございます(笑)。アルスのときはブルックナーオーケストラの懐の深さを感じました。楽しんで頂ける時間になって本当によかったです。

――それでは最後に、中山さんがアーティストとして生計を立てるために大事だと思うことを教えてください。趣味で終わらせるのではなく、仕事としてアートと向き合っていくにはどうしたら良いのでしょう?

現代は、様々なお仕事をしながら優れたアーティストでもあるという方がたくさんいらっしゃいます。様々な学問や職業から、新しい芸術の側面を見出すということが起こりやすい時代になってきていると思います。だから必ずしも、アートだけで生計を立てて生きていく人がアーティスト、というわけではないんじゃないかなと思います。

もし、今求められている表現だけを生計が立つからと、求められるままにしていたら、きっとアーティストとしての自分は死んでしまいます。アーティストとしての成長が止まるとも言えるかもしれません。

だから私は、それを避けるためにレジデンスを進んで探しているという理由もあります。レジデンス中は、ある期間パフォーマンスフィーを頂けるライブの仕事はなかなかできなくなります。その代わり、完全に制作だけに集中する期間を過ごすことができるので、アーティストとしてこの先も生きてゆくために必要な栄養をめいっぱい摂ることができるんです。そうやって自分を成長させ続けることが、大事なことだと思います。

そして、アートを趣味ではなく仕事にする方法としては、ちゃんと報酬を頂くことが大事ですね。ときに物々交換だとしても。特に卒業したてのころは、同年代や後輩の作家が「わたしはまだ未熟なので」と言って報酬が無いのを当然としたり、オファーする側も「いい経験になるからタダでやって」と。そういうことを続けていると、ものづくり界全体の先細りに繋がってしまうと思うんですよ。

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Photo by Haruka Akagi

――なるほど、確かにそうですね。もし私達の世代が「表現に自信ないのでタダでやります」と言い続けていたら、アートの価値は下がり、次の世代からはそれで食っていけなくなってしまいますね。

私が今、たくさんの中からレジデンスを選ぶことができたり、広い意味でもこの道で生きていけているのは、私よりも前に活動していた先輩たちがアートシーンを広げて、アーティストとして生きていける土壌を作っておいてくれたからなんだと感じます。

だから、流れを枯らさないようにするためにも、作品の価値を守ってゆくことは大事なことだと思います。

――ちゃんと仕事として引き受けて対価をもらうということが、次の世代の仕事にもつながるんですね。どうしても目先のものに囚われると、自分の利益のことばかり考えてしまいがちですが、次の世代のことも考えて行動するべきだという言葉にハッとさせられました。

先人たちの立ち振る舞いのおかげもあって私達は今アーティストとして活動できているので、お金の面だけでなく、私達がこれまで引き継いできた様々な学びや技術なども次の世代へ絶やすことなく渡していけるように考えて活動できるといいですね。

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