そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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今、美大生が会いたい 僕らの師匠【アーティスト・デザイナー : 長谷川 愛】

   

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現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登壇いただいたのは、現代アーティストの長谷川愛さん。科学や生物学的な先端技術を用いて制作を行い、社会問題や倫理観を世の中に対して問いかける作風が印象的です。昨年の文化庁メディア芸術祭では、実在する同性カップルから生まれる子供をシュミレートした作品で優秀賞を受賞。MITメディアラボのデザインフィクション研究室に所属しながら、現在 本作の展示を六本木の森美術館で行っていらっしゃり、国内外を問わずご活躍されています。
(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華、インタビュー:伊藤ルイ)

長谷川 愛:アーティスト・デザイナー

生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。数年間Haque Design+ Researchで公共スペースでのインタラクティブアート等の研究開発に関わる。2012年英国Royal College of Art, Design Interactions にて修士取得。2014から2016年までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて研究員。(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。国内外で展示やトーク活動をしている。主な展示、森美術館:六本木クロッシング2016 My Body, Your Voice展 、スウェーデン国立デザイン美術館: Domestic Future 展、台北デジタルアートセンター :Imaginary Body Boundary /想像的身體邊界展、アイルランド サイエンスギャラリー :Grow your Own…展 等。http://aihasegawa.info/

――学生時代はどのようなことを学ばれていたんですか?

IAMASという岐阜にある専門学校に3年間通っていて、アニメーションとメディアアートを勉強していました。

――この道に入ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

もともとIAMAS時代にやっていたことも内容は近くて、当時は宗教とか人の死に対して興味があったんですね。親元から離れて家の宗教から抜けられたことで、“宗教”を客観視できるようになったというのと、知人がガンで死んでしまったということがあって、宗教や死生観についてよく考えていました。

そこで気づいたのは、宗教って、もう私の悲しみとか絶望を癒してくれるファンタジーにはなりえないということ。やっぱり信じられない部分があるんですよね。じゃあどこに救いを求めるのかって考えたときに、もしかしたらサイエンスが肩代わりしてくれるのかもしれないと思ったんです。

そこから、人の死をどう受け止めるかっていうことに関してサイエンスと組み合わせた作品を作るようになりました。例えば人の体にどんどんズームインしていくと、微細な粒子とか原子になると言われていますよね。そう考えたときに、死とか人間の境界線はどうなるのかという疑問が湧いて、そうした自分の死生観を反映させたファンタジーのアニメーションを作ったりしていました。

その後ロンドンのデザイン会社で、IoTやArduinoのようなテクノロジーを利用したアートプロジェクトのコンセプトを考えたりしていたんですが、そこでもやっぱり私は祈りとか、人間の求めている欲望といったものをテーマにしていて、同時にテクノロジーの可能性に関してもいろいろリサーチしていたんですね。

でも結局のところ、別にオリジナリティがなくても、会社を大きくして、いい営業さんといいプログラマーさんをハイヤーすれば、誰でも面白いもの、ある程度みんなが喜ぶものはできるということに気づいてしまって、それをわざわざ私がやる必要はないんじゃないかと考えるようになったんです。

それで当時、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)っていうロンドンにある美術大学のコースがすごく面白くて、数年間ずっとウォッチしていたんですが、そのなかにサイエンスアートに関連して「今はまだないテクノロジーにデザイナーはどう取り組んでいくのか」「私達はどんな世界で生きていきたいのか」っていうことを考え、社会に問いかける作品を制作しているコースがあったので、見に行ってみたんですね。そしたら、アイスクリームの雪を降らせる装置を考案した人や、化石を作り出す装置を考えている人もいて、先輩たちの作品がものすごく面白かった。

それで私も自分のオリジナリティが出せるものがやりたいと思い、RCAの大学院に入って学び始めたんですが、あるとき授業の一環として、科学と社会の関わりとか、合成生物学について勉強したんですよ。そのときに、「私が今もやもやと思っていることに対して、将来どんなテクノロジーが実現したら解決策になるんだろう?」と思って、ちょうど私の興味が子供とか人間の欲望、本能なんかに向いていたことから『私はイルカを産みたい・・・』『私はサメを産みたい・・・』という作品が生まれました。それから『極限環境ラブホテル』という、極限環境のなか人間の欲望や愛情はどのように変化するのか社会に問いかける作品や、『(不)可能な子供 』という作品につながっていったんです。

I Wanna Deliver a … from aikiaiki on Vimeo.

『極限環境ラブホテル』
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――長谷川さんはIAMAS卒業後、ロンドンで活動されていたということですが、海外へ行こうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

私はそもそも英語が本当にできなかったし、海外にも全く興味をもっていなかったんですよ。でもIAMASにいたときに、アーティスト・イン・レジデンスを通してやってきた海外アーティストの方と恋に落ちてしまって、彼を追っかけていった結果ロンドンにたどり着きました(笑)。

――そんなドラマチックな背景があったんですね。

もう本当に何も分からないまま行ったんですが、どうにかこうにか赤ちゃん言葉が喋れるようになって、いろいろ理解できるようになると、ものすごく海外生活が面白くなったんですよね。

敬語をあまり使わなくてもいい文化とか、多国籍文化の刺激と寛容さ、私が今まで面倒だと思っていたことに意識を払わずに済むというのと、ちょうどロンドンという場所がアートが盛んで学ぶのに最適な環境だったということでハマッてしまい、それからは海外に抵抗がなくなりました。

――今はアメリカで主に研究職をされている長谷川さんですが、研究とアートの境界についてはどのように考えていらっしゃいますか?研究内容をどのようにアートへ置き換えていらっしゃるのでしょう?

私はもともとアート方面の人間だったので、アートに関連した形で今、メディアラボの研究職についているんですが、まず問題を発見して、それから解決方法を試行錯誤するというプロセスを考えると、基本的に研究もアートも考え方は同じだと思います。

アーティストも、どうしたら人に伝わりやすい表現ができるか、いろんな方法を模索しますよね。それは一見、研究には見えないかもしれないけれど、実際にやっていることは研究とすごく近い。だから私の場合は、自分が以前から感じていた疑問をロジカルに分析することで研究テーマにつながっていくんです。

私が『(不)可能な子供』という作品を制作したときは、いろんな分野の方にインタビューして意見をリサーチしたり、NHKさんにドキュメンタリーを撮ってもらって放送後に寄せられたツイートのコメントを分析したりしながら、作品の見せ方やコンセプトの研究を進めていきました。

――「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」で展示されていた『(不)可能な子供』には、この世に存在しない子供との家族写真や、それに関する科学者や同性愛者など、様々なジャンルの人たちの意見が示されていて、とても興味深かったです。どのような考えがあって、この展示形式になったのでしょうか?

そもそも『(不)可能な子供 』という作品自体、私のなかの疑問、問いかけから始まっているんです。

『(不)可能な子供』http://aihasegawa.info/?works=impossible-baby-case-01-asako-moriga

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きっかけは、制作のためのネタを探してiPS関連の本を読んでいたときに、「もしかすると将来、同性間で子供が作れるかもしれない。しかし倫理的な問題にぶつかるので、実現は難しいだろう。」と書かれていたのを見つけたことです。私にはそれが倫理的にダメな理由が思いつかなかったので、みんなに問いかければ教えてくれるかもしれないと考えて、いろんな人に聞いてみたんですね。

そしたら、「これから男はいらなくなるんじゃないか」とか「直感的に嫌だ」というだけでなく、その他にもいろんな意見があってすごく面白かった。でもそれらの意見を私だけが抱えてしまうのはよくないと思ったし、作品を見た人にも意見を出してもらいたかったので、なかでも特に面白かったものとか、重要だと感じた意見を20個ほどピックアップし、賛成・反対どちらも含めて中立的になるよう展示しました。

それともう一つ、どうしたら作品を見た人に深く考えてもらえるか、という問題があって、例えば文章で「将来、同性間で子供が生めるようになる技術が出てきます。どう思いますか?」と問いかけても、きっとほとんどの人が感覚的に「それはダメだろう」って言うと思うんですよ。でもそこで、もっと作品の意味するところを分かりやすく見せることができたらどう変わるだろうと思い、実在のカップルをモデルにした家族写真を展示しました。私には彼女たちのDNAデータから、なんとなく家族団欒のストーリーも想像できてしまったので、かなりリアリティのある家族写真を見せることができたんですね。

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こうやって今回取り上げた問題がもつ可能性を知ってもらうことで、本当にこの家族は存在してはいけないのか、考えを深めてもらいたかったし、同時に他の人の意見を知ることで議論を促進したかったんです。そうした意図から、六本木クロッシングではあのような展示システムになりました。

――今回、六本木クロッシングの展示を拝見したとき、長谷川さんの作品にたくさんの方が関わっていらっしゃることを知ってとても感動しました。このプロジェクトのチームはどのように集めたのでしょう?

ここ2年ほどアメリカのボストンを拠点に活動しているんですが、ボストンのいいところって、ハーバード大学やMITメディアラボで様々な研究をしている理系の日本人研究者と、かなり密にお話ができることなんですよね。それが私にとってはすごくありがたい機会になっていて、『(不)可能な子供 』のときもiPS細胞の研究者に直接相談をしたり、知恵を貸していただけそうな先生を紹介してもらったりしていました。

あと遺伝データを提供してくださった牧村朝子さんは、以前からネットでお名前を拝見していて、「すごくロジカルに物事を考えているし、とてもステキな方だな」と思っていたんです。ちょうど探しているカップルにピッタリだったこともあってコンタクトを取り、参加していただくことができました。

そうやって私の場合は、自分で一人一人探すか、友達のツテを探るかで、地道にメンバーを集めていってます。

――なるほど。一人一人新しいバトンをつなげて、チームが結成されていったんですね。

そうですね。なかなか人を集めるのは大変なんですが、やはり制作する上で一番の要となる仕事なので、地道に進めていきました。

――長谷川さんが作品を制作するうえで大切にしていることはなんですか?

科学を扱うからには、できるだけ誠実で正直であることを目標にしています。

なぜかというと、私がやっていることはSFに近いので、ウソをつこうと思えばすぐにつけるし、騙せてもしまうんですよ。そもそもサイエンスという分野については、特に自分の分野を一ミリでもズレたら、サイエンティストでさえ何がウソで何がホントか分からない。確かにウソをつけば、もっとバズることができるのかもしれないけれど、私の一番の目的はバズることでも、騙すことでもなく、リサーチした情報を見せて、みんなに考えてもらうことです。だからサイエンスに関わるからには、真面目に取り組まなければと思っています。

あとは、いろんな方に意見を聞いて議論を進めるためにも、私自身は中立的な立場でいるよう気をつけています。

『(不)可能な子供 』のときも、LGBT系の人とそうではない人、どちらの肩をもつかで中身が大きく変わってしまうので、できるだけ自分は中立で、フェアな立ち位置にいるよう気をつけました。ほんとに見せ方一つで人の意見は変わってしまうので、表現する者としてどれだけ公平さを守れるかがすごく大事だと思います。

――なかなか美大生にとって切実な問題なんですが、アーティストとして食べていけるようになるには、どうしたら良いと長谷川さんはお考えですか?

それは私も知りたいですね(笑)。でも正直、日本だとなかなか大変だと思います。

――日本で活動していると、どのような部分で大変だと感じますか?

アートだけでやっていく人に対して、国からの補助金がほとんどないというのと、現代美術に関していえば、アートマーケットがまだ日本は小さいということですね。

――なるほど。海外のアートマーケットの規模感があまり分からないのですが、かなり大きいのでしょうか?

この前アート・バーゼルという現代アートフェアを見に行ったんですね。そこには世界中から有名なギャラリーさんが集まっていて、日本のコミック・マーケットみたいに自分のブースで手持ちの作品を展示・販売しているんですが、世の中にはこんなにお金持ちがいるのかってビックリしました(笑)。

私はメディアアートの方面なので、直接作品が売り買いされるというよりは、コミッションワークとか企業コマーシャルの仕事が多いんですが、現代美術のアーティストはギャラリーを通して自分の作品を売ることが多いんです。それがなかなか私にとっては衝撃だったんですが、そういった販路を考えると、まず売れるためには大手のギャラリーさんに注目されるような作品を作らなきゃいけないということですよね。そうなると、自分が作りたいものを作るより、恐らく売れやすい作品を作ったほうが食っていくことにつながるのかもしれない。

そう考えると、何がしたいのか、どう売れたいのかによって、やっぱり戦略は変わってくると思うんですよ。もちろん、自分がやっていて楽しいと感じるか、という問題もありますし、そこは本当に私も悩ましいところです。やっぱりアートって、その作家のキャラを売っている部分もあるので、そういう意味では人それぞれ自分に合った売り方を模索しなきゃいけないなと考えました。

――長谷川さんの今後の展望を教えてください。

最近はAIにすごく興味を惹かれてますね。あとはiPS細胞から生まれる子供よりも、デザイナーベビーのほうが早く実現するかもしれないといわれているので、そのあたりのことがすごく気になっています。

私自身は、これからも地道にリサーチを重ねて、「これってどうなんだろう?」という疑問を見つけ考えていく作業をしていこうと思っています。そういう地味な作業がほんとに好きなんですよ(笑)。そこからまた次の作品を固めていけたらいいですね。

―最後に学生へ一言、メッセージをお願いします。

アーティストとして生きていくと、きっとみなさん迷走する場面があると思うんですが、私もよく迷いますし、それは誰にでもあることなので、どんどん成長のためにも迷走してください。

あと海外留学を考えている美大生には、ロンドンをお薦めします。アートを学びたいなら、アメリカではなくヨーロッパに行ったほうがいいように思えます。

やっぱりヨーロッパの人たちは多様性についてすごく理解があるんですね。国同士が隣り合っているし、ヨーロッパ以外の文化とも距離的に近いので、カルチャーの違いに対してとても許容性があるうえ、考え方が深い。アートを学ぶ環境としては、とても理想的な場所だと私は感じたので、お薦めしておきます。

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