そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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今、美大生が会いたい 僕らの師匠【映像ディレクター・池田 圭】

      2016/07/04

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現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登壇いただくのは、数々のMVや映画を手がけ、美しく叙情的な映像表現で見るものを虜にする映像ディレクター、池田圭さんです。
(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華、インタビュー:軍司拓実)

池田圭:映像ディレクター

1979年長野県生まれ。19歳より独学で映像を学び、映画制作を始める。原作・脚本、撮影から編集までを監修、および自身で手がける事も多く、作品全てに一貫性と独自の感覚を反映させ、数々の映画祭での受賞歴を持つ。現在はミュージックビデオを中心とした映像作品を数多く手がけ、 楽曲の新しい映像表現を開拓した先駆者として、音楽業界からの注目を集めている。その傍ら、舞台脚本・演出、プロモーション映像など活動の幅を多岐に広げている。2014年 映像プロジェクトKANARIA設立、2015年 株式会社イサイ設立。

――池田さんが映像に興味をもったきっかけを教えてください。

僕はもともと全く映像に興味がなかったんですが、高校生のときに暇つぶしとしてTSUTAYAで借りた映画をひたすら見ていたんです。そのときに出会った岩井俊二監督の作品がすごく心に響いて、「映画って面白い。こういうのを作ってみたい。」って思うようになりました。それが多分、最初のきっかけですね。

――映像の技術は独学で学んだということですが、どのような勉強方法で技術を身につけていったのでしょう?

「独学で」っていうとかっこよく聞こえますが、要はカメラを買って、自分で実際にいろいろ撮影していただけです。僕は高校を途中でやめていて、大学にも専門学校にも行かなかったので、先生から映像について何か教えてもらったことが一度もないんですよ。自分で撮影してみるほかに学ぶ手段がなかった。だから昔は、学校に行っている人たちがすごく羨ましかったです。

僕は現場を知る手段もなかったので、よくオフショットを見ていましたね。オフショットで現場の様子をうかがい知りながら、少しずつ手探りで学んでいきました。

――大学や専門学校へ行く人が多いなか、池田さんは本当に叩き上げの映像ディレクターなんですね。当時はどのような活動をされていましたか?

20代前半の頃は売れない芸人みたいな生活をしていましたね。アルバイトに行って、家に帰って脚本を書いて、ちょっとお金が貯まったら自主映画を撮ってコンテストに応募する、みたいなことをずっと繰り返していました。

――映像のお仕事はどのように見つけたのでしょう?

それが自発的に探したことはないんですよ。「自分は映像が撮れます!」って言うのが恥ずかしくて。ちゃんと映像を学んだわけでもないし、自分のやり方が合っているのか、自分の映像が良いのか悪いのかさえも分からなかったので、声が掛かったらやるっていう感じでした。

――今では数々のMV作品を手がけていらっしゃいますが、MVのお仕事をするようになったのも声を掛けられたのがきっかけだったんでしょうか?

まさにそうですね。当時、友達のバイト先の先輩がバンドをやっていて、そのPVを撮ってみないかって依頼されたのが最初です。そこから徐々に広がっていきました。

――お仕事として映画を制作したのは、2013年公開の『眩しくて見えなかったから長い瞬きを繰り返した』が最初でしょうか。MVを映画化するという新しい表現方法に驚きました。

2012年に制作したCOUNTRY YARDの『Starry Night』DORAMAverがすごく評判になったので、続編として女の子を主役にした短編映画を撮ってほしい、というお話をいただいて制作したのが『眩しくて見えなかったから長い瞬きを繰り返した』なんですね。だから映画の挿入歌を全てバンドの曲にして、COUNTRY YARDさんには主題歌をお願いしました。

僕はこの映画を通して、音楽好きな人が映画を見て、映画好きな人がロックを聞くようになったらいいなって思っていたので、全国ツアーという形で映画館だけでなくライブハウスでも上映させてもらいました。結果として、いろんな人が面白がってくれたので、音楽と映画の架け橋となる良い作品になったのではないかと思っています。

――池田さんの制作した映画やMVは、一つ一つの画からストーリーが見えて、かつ見終わったあと心にジーンと響きます。作品は普段、どのように制作していらっしゃるのでしょうか?

一番印象的なワンシーンを最初に決め、そこからイメージを派生させて考えることが多いですね。全体をバラバラに考えるのではなく、ワンアイデア、ワンポイントから想像を膨らませていく感じかな。例えば「傘を差している女性」の画がすごくいいと思ったら、その場面が印象的になるような前後の流れを考えて制作します。だから作品にストーリー性が見えるのかもしれませんね。

――僕がすごく感動したのがJELLYFiSH FLOWER’Sの『ほんとうのこと』です。まさに短編映画とMVのハイブリッドで、叙情的な曲調と相まって思わず余韻に浸ってしまいました。

JELLYFiSH FLOWER’S、いいバンドですよねぇ。やっぱり曲によってドラマ映像が合うもの合わないものってあると思うんですよ。

僕がドラマMVを作るとき気にしているのは、歌詞をセリフのように扱えるかっていうところなんですね。例えば、「君に会いたい」っていう歌詞が出てきたときに「君に会いたそうにしている画」を入れてあげれば、セリフがなくても意味や気持ちは伝わると思うんですよ。だからドラマMVを制作するときは、できるだけ歌詞と映像がマッチングするように気を付けています。映像のなかに言葉がない分、歌の力を借りてドラマを引き立ててあげるんです。それが一番上手くいった作品が『ほんとうのこと』ですね。

――映画だと約2時間かけて伝えればいいものを、MVだと3、4分、長くても5分以内で伝えなければいけませんよね。短い時間のなかで伝えたいことを伝えきるために、池田さんが気をつけていることは何ですか?

「分かりやすい」内容にすることですね。5分で伝えなきゃいけないのなら、5分で理解できるような内容にする。

世の中には「何が言いたいんだろう?」って疑問に思うような作品もあって、好きな人はそこに深みを感じたりするんですが、僕は分かりにくい作品は悪だと思っているんですよ。

だから、たとえベタな内容になったとしてもシンプルで分かりやすい作品になるよう昔から心がけています。ベタになることを恐れずにやることが大切かもしれません。

――複雑なことをするのではなく、単純なことを組み合わせていくことで短時間でも伝わる作品になるんですね。

多分それがコツですね。
たとえ登場人物のバックボーンがすごく複雑だったとしても5分では表現しきれないので、とにかく悲しかったら泣くとか、嬉しかったら笑うとか、どんどんシンプルに伝えていく。そういった情緒や感情を分かりやすく見せられるように、すごく気を付けて制作しています。

――MVを制作するときは、どれくらい脚本を作り込んでいますか?

わりと作り込むことが多いですね。脚本を作らないときもあるんですが、どちらかというと脚本があったほうが役者さんは演じやすいんじゃないかなと思っているので。

例えば、街を走る、誰かと出会う、夕日に向かって叫ぶっていうシーンを撮りたいときに、演じる側としては「どうして走るのか」とか「なぜ夕日に向かって叫んでいるのか」とか、映像には写らないけど前後の関係性を知っておいたほうが、やっぱり上手く演じられると思うんですよ。僕たちは「人」を撮っているので、その人がしっかり演じられたときに伝わる作品ができるんです。だから5分の映像だとしても、脚本を30ページ書いたりします。

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――池田さんの作品では、特に人物がものすごく美しく写されていますよね。人物を美しく、魅力的に撮影するコツはなんでしょうか?

単純に、被写体のことを好きになるのが一番だと思います。もう一つは、映像を撮っているっていう考え方を1回忘れて、相手の方と一緒にいるこの空間をもっと素敵にしたい、と考えるようにすると良くなる気がします。カメラ側が「綺麗な画を撮ろう」って意気込んじゃうと、きっと被写体になる方も構えちゃうと思うんですよ。だから被写体の方が「え、もう撮影終わったの?」って思うくらいラフな空間のなかで撮影したほうが、結果的にいい画を撮れる気がします。「自分から撮りに行く」というよりは撮らせてもらう」という感覚ですね。カメラに役者が合わせるのではなく、役者にカメラを合わせるんです。だから基本的には被写体の動きやすさが最優先で、撮影は二の次だと考えたほうが上手くいくと思いますよ。

――カメラ側から「こういうアングルがほしいです」って言うのではなく、その人のありのままをカメラが追う、という感じですか?

そう!だから僕、絵コンテも書かないですし、カット割りもしないんです。基本的には字コンテで進めてますね。絵コンテを書くと、そこに書かれた段取りに縛られちゃう気がするんですよ。当日に何が起こるか分からないし、役者さんがどう動くかによってカメラの動きを変えていきたいので、あまり事前に段取りを固めたくないんです。

――なるほど。でもストーリーの流れから外れないようにするためには、事前にある程度の動きを固めておく必要がありますよね。撮影当日はどのくらい自由に動けたらよいのでしょう?

そのシーンで一番大事なものが何かを考えて、その本筋からずれない程度で臨機応変に動いていくのが大事だと思います。

例えばストーリー上、悲しくて泣いている女の子のシーンがどうしても撮りたい場合、女の子が泣く場所はどこでもいいと思うんですよ。大事なのは”女の子が泣いている”ことだから。でもそれに気づいていない人は、予定していた撮影場所が不測の事態で使えなくなるとオタオタしてしまう。

そのシーンで一番描きたいものが表現できることを最優先にしつつ、かつ人物も綺麗に写せるよう、状況に応じて柔軟に動けると良いですね。

――池田さんが手がけたMVでは、しばしば映像の最初や途中、最後にセリフが入っている作品が見られるところに、よい意味ですごく映画っぽさを感じます。それはやはり池田さんが主に映画を撮影してきたからなんでしょうか?

たぶんそうですね。
でも僕の場合、セリフを入れるのは作品を説明するためでもあるんですよ。セリフが入ると、なんとなくそのMVの雰囲気やストーリー構成が分かるので、見ている方も心構えができて、より作品に没頭できるのではないかと思うんです。だから作品に入り込むための導線みたいな感じでセリフを入れたりしますね。

――流し見されるMVが多いなか、ちゃんと映像作品として見ようと思わせる力が池田さんの映像にはあるなと感じていました。セリフを入れることで、そういった映像の見せ方をすることができるんですね。

そうなんですよ。結局はどこまでいってもプロモーションビデオなので、見ている人が途中で飽きるような映像を作ったら、作り手として失格だと思うんです。

もし映像が面白ければ最後まで曲を聞くじゃないですか。それはつまり、アーティストからしたら曲を5分間お客さんに聞いてもらえたってことになるので大きなプロモーションになる。それがPVを制作する意味なんですね。

だから僕は、最後まで飽きさせない映像にすることを一番に重視していつも制作しています。

――池田さんが映像監督として一番大切にしていることはなんでしょうか?

スタッフさんや出演者さんなど、撮影で関わった全ての人に「またあの現場に行きたい。また一緒に仕事がしたい」って思ってもらえるような現場を作ることですね。本当にそれだけです。

――池田さんは、監督に必要な能力はなんだとお考えでしょうか?

うまく人を巻き込む力でしょうか。この監督の言うとおりにやっていれば、間違いなく良い作品ができるって思わせる能力は必要ですね。

――なるほど。池田さんは人を巻き込むために何か気を付けていることはありますか?

人それぞれ価値基準が違うので、スタッフとの間にうまく共通言語を作るようにしています。

例えば、事前に今回制作する作品がどんな内容になるか、分かりやすい言葉で一言伝えてあげることは重要ですね。「今回は感動する作品を撮るよ」ってザックリ伝えるだけでもチームの方針が大体決まるので、スタッフは動きやすくなると思うんですよ。

あとは現場でよく、みんなにモニターを見てもらうようにしています。そうすることで、今撮ろうとしている画について共通意識をもってもらえるんですね。スタッフの間に共通意識が生まれると、チームワークもよくなって作品のクオリティも上がるので、僕はいつも最初にザックリ一つの方針を共有して、細かい部分は制作を進めながらみんなで話し合って決めていきます。

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――映像のお仕事をしていて良かったこと、そして大変なことはなんでしょう?

良かったことは、毎日違う出来事が起こるので、仕事をしていても飽きないことですね。

逆に大変なことは、いつでも忙しいことかな。定時もないし、いつも何かしら仕事のことを考えちゃうのでオンとオフの切り替えがないんですよ。これはもう宿命なので、どうしようもないですね。

―MV、映画、舞台演出、脚本など幅広い活動をしていらっしゃる池田さんですが、今後なにか挑戦してみたいことはありますか?

まずは写真、映像を軸にしたスチールがやりたいですね。今はカメラの性能がすごくいいので、映像から一枚切り出して写真にできないかなって考えています。

あとは海外にどんどん出ていきたいです。今年の目標ですね。せっかく映像という共通言語があるので、海外でロケをしたり、海外の人とコラボレーションしながら作品を作ったりしたいです。

――今後のご活躍が楽しみです。池田さんには今、何か夢ってありますか?

これは昔から言っていることなんですが、僕、サーカス団を作りたいんですよ。今って東京だけにいろんなカルチャーやエンターテインメントが集中していて、地方まで良いものが伝わりきっていない気がするんです。僕はもっといろんなカルチャーを多くの人と共有したいし、伝えたい。それは映像に限らず、音楽や美術、食事、舞台なんかでもいいんですが、いろいろな場所を回って、いろいろな人に素敵なものを見せてあげたいんです。そういうサーカス団みたいなことをするのが僕の夢ですね。

――学生のうちに身につけておくべきことは何かありますか?

まず大変なことがあっても諦めないことですね。あとは誰でも絶対に失敗するので、失敗してもくよくよせず、早く立ち直ること。それが次の失敗を防ぐことに繋がると思います。

――池田さんにとって映像とはどんな存在でしょうか?

「生きていくための支え」ですね。映像がなかったら、きっとろくな人間になっていなかったと思います。でもずっと諦めずに映像を撮り続けて、やっと人から頼まれるような映像の作り手になれたからこそ、昔の自分も肯定できる。だから僕は、もう昔の自分を後悔していないんですよ。映像のおかげで今の自分がいるので、もはや生きる支えになっていると思います。

――最後に学生へ一言、メッセージをお願いします!

きっと学生の間にいろんなものを作ると思うんですが、自分で作ったものを自分で壊す勇気を持ってください。例えば編集したものをもう一度やり直すとか、単純なことでいいので、最初に立ち返ってもう一度作り直してみてほしいんです。これは時間も掛かるし、すごく怖いことなんですが、やっぱり2回目のほうがうまくできるし、新しい発見もあったりするんですよ。だから自分で作ったものを自分で壊していくことが上達する第一歩だと思います。

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