そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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今、美大生が会いたい 僕らの師匠【サイエンス アーティスト・清水陽子】

      2016/06/24

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現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登壇いただいたのは、科学と芸術を融合した”サイエンス アート”を国内外で発表していらっしゃる清水陽子さんです。

(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華)

清水陽子:サイエンス アーティスト

 

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幼少時代をアメリカで過ごし、NY のアートに感銘を受ける。神戸大学で生物化学を学び、現在は芸術と科学を融合したインスタレーションを制作。日本および海外で発表している。国際放送局で洋楽とアートの番組を担当し、メディアを通じてアートシーンの活性化に貢献する活動も。芸術文化選奨文化新人賞など各種芸術賞を受賞。科学と芸術のコラボレーションを推進するラボ「+1e」を立ち上げ活動している。 http://yokoshimizu.com/

――清水さんがサイエンスアートを制作するようになったきっかけを教えてください。

私は生まれが京都で、祖父が伝統芸能に親しみ深い人だったので、小さい頃から伝統的な芸術や自然に囲まれながら暮らしていました。そんな環境のなかで育ったためか、子供の頃から芸術や自然や生き物が大好きでした。

そのあと父親の転勤がきっかけで、小中学生の間ニューヨーク近郊で暮らしていたんですが、街中に芸術や音楽が溢れていて、今度は現代美術に触れるようになりました。また京都とは違った、先進的で枠にとらわれない自由なアートに子供ながらに感動し、週末は親に連れて行ってもらったミュージカルや美術館で名作に触れることができたので、ますますアートが好きになりました。一方で自然や生き物といった理科系のことにも興味があったので、大学を選ぶときは芸術系に行くか、自然科学系に行くかすごく悩みました。

でも独学で学ぶことを考えると、科学的なことは大学の研究室や研究所でなければ詳しく勉強できないことがたくさんあります。だから生き物や自然、宇宙から生まれる様々な現象の美しさを解明するためには、理系を選ぶのが一番ではないかと思って神戸大学に進みました。

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[Pop Culture – ギャラリー内に設置したクリーンルームの中でカラフルに増殖する命。細胞群はやがてコロニー(集落)を形成し、集団でさまざまなパターンを創り上げながら、美しく成長・繁栄・衰退を繰り返す。]

――実験とか実習、解剖とかは独学だと難しいですよね。

そうですね。私は生物化学を専攻していたので、周りの同期はバイオテクノロジー系の研究者になる人が多く、就職は医療や製薬の基礎研究をする研究員になるのが一般的です。

でも私は、それほど研究員としては優秀じゃなくて(笑)。クリエイティブなこと、新しいテクノロジーや実験に挑戦することは得意なんですが、データを正確に、たくさん集めるっていうことが苦手だったんです。それに製薬系や医学系の基礎研究では、なんらかの形で動物実験に近いことも行われますが、私は生き物が大好きだったので動物が痛がる様子が苦手で。だから生物学研究者を本職にするには向いてないかもしれないと思いました。

そこで自分に向いているのは何かって考えたときに、やっぱりクリエイティブなことが好きだったので、科学と芸術を融合させたらいいんじゃないかって思い付いたんです。今までになかった組み合わせに、新しい可能性を感じていました。それがサイエンスアートを制作し始めたきっかけです。

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[Photosynthegraph – 光合成により植物にグラフィック印刷を行うフォトシンセグラフ。命の源であり地球の歴史を変えた光合成反応。生命活動によって現像されたプリントは儚く美しい。]

――大学時代はどのような活動をされていましたか?

3年生から生物化学系の研究室に配属されて調査、分析、実験などをしていました。あとは4年生のときに、夜だけ企業で働くインターンシップをやってみたいなと思って、英語と理系の知識が必要なクリエイティブディレクターを募集していたベンチャー企業へインターンに行っていました。

小さな制作やコンサルティングをしている会社だったんですが、そこでクライアントさんと共に、日本だけでなく海外にもアピールしていける戦略を考える、クリエイティブディレクター兼コンサルタントのようなお仕事をさせていただきました。

会社ではテクノロジー系の企業と関わることが多く、コンサルティングをするために新しいテクノロジーや環境への配慮などの知識が必要だったので、自然科学や分析といった理系の分野を学んでいたのが強みになりました。

普通の会社だったらアシスタントディレクターから始まるところを、いきなりディレクターからやらせてもらえたので、大変な思いはしましたが、すごく鍛えられました。

――インターンをしていらっしゃったんですね。大学を卒業した後は、そのままフリーランスになられたんですか?

いえ、そのままインターンをしていた会社に就職して、3年ほど修行を積みました。そして3年が経つ頃に、ふと今後の身の振りかたを考える瞬間があって、このまま今の仕事を続けようか、別のことに挑戦してみようか考えたんです。そこで私は生意気にも、一通りのプロジェクトは経験したし、社会人としてもある程度鍛えられたから、自分のスキルを活かしてフリーランスになろうと思って会社を辞め、四苦八苦しながらなんとか今に至っています(笑)。

――そこから清水さんのフリーランス人生が始まったんですね。今ではサイエンスアートを代表する存在となっている清水さんですが、フリーランスになってから今に至るまで、どのような道筋を辿ってこられたのでしょう?

それまではお客様のために制作するのが主な仕事でしたが、フリーランスになってからは、その他にも自分が本当に面白いと思うものを自主的に制作するようになりました。そしたら少しずつ賞をいただくようになって、それから次第にギャラリーや百貨店などからお声をかけてもらえるようになりました。

理系出身でアートの分野にはコネクションがなかったし、どういった方法でアート業界に入っていけばいいのかも分からなかったので、まさかそんなチャンスがもらえるとは思っていなかったんです。でも「もうダメかもしれない」と思うたび、様々な人たちに助けられ、模索しながらもなんとか前へ進んでいけました。

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[Anatomy of Flora – 植物解剖画像。ラボでは科学実験のために何百もの植物画像を収集している。拡大画像は青い薔薇の茎注射。]

――自分が本当に面白いと思うものを作るようになってから道が開けたんですね。清水さんはこれまでに、なにか影響を受けたものはありますか?

私は小さい頃、ゴッホが一番好きで、親に画集やカレンダーを買ってもらったり、伝記を読んだりしていました。

あとは発明王のトーマス・エジソンも好きでした。ニューヨーク近郊のニュージャージー州にエジソンのR&Dラボを含む記念公園があるんですが、小さい頃に見に行ってすごく感銘を受けました。

エジソンというと電球や蓄音機のようなエレクトロニクス系の発明を思い浮かべることが多いと思うんですが、彼の最大の功績は、実はR&D(Research and Development)の仕組みを考えたことではないかと言われています。優秀な研究者や開発者を集めて、様々なコラボレーションを行いながら新しいものを開発するCollective Genius(集合天才)という考え方なんですが、エジソンはそれを世界に先駆けて実践することで、あれだけの数の特許を取得することができたのではないでしょうか。

私もいろんな人とコラボレーションしていきたいタイプなので、夢としては、いろんな分野の人が自由にコラボレーションできるR&Dラボみたいな場所を日本に作りたいです。

他にはジェームズ・タレルのような、自然現象や科学的な法則がうまく取り入れられたインスタレーション・アーティストが好きで、ずっと見ていても飽きないです。

――タレル、私も大好きです。清水さんは普段どこからインスピレーションを得て、作品を制作されていますか?

自分たちの身の回りで起きていること全てから、です。科学的な法則や事象、自然現象を扱うので、地球全体、そして宇宙まで、全てのものが作品の材料になります。だからインスピレーションで困るということはないです。

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[Gravitropism – 重力屈性による植物操作。植物ホルモン作用によって重力に逆らい180度曲がりながら成長するチューリップの空中栽培インスタレーション。]

――ただ自分が気付いていないだけで、素材は至るところに転がっているんですね。

そうです。見逃しているだけで、面白くて美しくて不思議な現象は無数に起きています。でも全てを取り扱うことは体力的にも物理的にも無理があるので、制作するときはその中からどうしてもやりたいものを厳選します。

つまり気になる現象を日々、何十個、何百個と好きなだけ書き溜めて、実際に作品にできそうかリサーチを重ねていきます。現象によってインスタレーションに向いているものと向いていないものがあるので、古い文献から最新の文献までいろいろ調べて、最終的に2、3個になるまで絞り、それから実際に実験してみてプロトタイプがうまくいったら発表するという流れで普段は制作しています。

――清水さんはサイエンスアートに携わっていく上で必要なスキルは何だとお考えでしょう?

サイエンスアートに限らず全ての分野に言えることですが、広い視野、グローバルな視野をもつことが必要です。交通や通信が世界を結び、どんな国にもすぐアクセスできる時代となった今、情報を日本国内にしか発信しない、あるいは逆に国内の情報しか見ない、というのは非常にもったいないことですし、自分の可能性を狭めてしまうことになります。英語をペラペラに話す必要はないけれど、例えば英語で情報発信すれば単純に人口比で日本の何倍、何十倍もの人にリーチできることになりますよね。逆に自分で情報をリサーチするときも、日本語だけでなく英語も使って検索すれば世界中の知識を得ることができる。ちょっと英語を意識するだけでも可能性が大きく広がるので、そういう意味でグローバルな視野は今後ますます必要になってくると思います。

あとは失敗を恐れないことが一番大切です。そもそも科学的な事象を扱うということは、つまり自分のコントロールできないものをコントロールしようとすることなので失敗して当たり前です。だから展覧会前はいつもドキドキです(笑)。

――当日にちゃんと現象を再現できるかって、実際に当日になってみないと分からないですよね。

そうなんです。当日にギャラリーなどのアート空間で、実験室と全く同じように現象を起こすのは、環境や気候によっては非常に難しい場合もあって、たくさんの調整が必要です。なので展覧会がオープンする直前まで、本当にドキドキしています。事前にありとあらゆるケースを想定して、バックアップ・プランをいくつも用意しておくんですが、それでもやっぱり想定外の出来事が起きることもあるので、最近はかなり打たれ強くなりました(笑)。

――今までやってきたなかで一番印象に残っているお仕事はなんですか?

良くも悪くも感慨深い展示になったのは、2015年の1月に開催したThe Clean Roomという展覧会です。ギャラリー自体をクリーンルーム化して、その場でシャーレ内で細胞培養をしながら生命のサイクルの美しさを鑑賞するというコンセプトの展示だったんですが、今まで生きたインスタレーションをそこまで大掛かりに展示したことがなかったので、すごく思い出深いです。

ここ数年、日本ではバイオアートが流行ってきましたが、それまではどのギャラリーでも生命や自然を扱った展示物を大掛かりに展開することができなくて、「メンテナンスができない。扱い方が分からない」と言われていました。なので、メインの展示スペースには取り扱いが簡単なインスタレーションを展示させていただいて、隅っこのほうに「コレも入れさせてください」って交渉して、無理やりシャーレの作品も置かせてもらったりもしました(笑)。

一見何もないところから命が発生して成長して衰退するっていう、そのサイクルが美しいんですが、なかなかその世界観をちゃんと示せるような展示をする機会がなくて、置かせてもらえたとしても写真だけだったこともあります。

だけど3年前の個展で、また隅っこのほうでシャーレの写真を展示していたら、名古屋にあるLADギャラリーのオーナーさんがいらっしゃって「面白いじゃないか!ぜひともこれをメインにした展示をしたい!」と言ってくださったんです。それがきっかけでThe Clean Roomが実現したんですが、当日まではずっと開催できるか不安でした。クリーンルームといっても完全にクリーンな状態にはできないので、ギャラリーで培養してちゃんと成功するのかなという心配がありましたし、培養に必要な機械が輸送中に壊れたり、下処理のときに誤って手をやけどしてしまったりとアクシデントも続いて、本当に直前まで不安だらけでした。

でもThe Clean Roomを開催したことで、バイオロジストっていう肩書きを前面にプッシュしていくことの可能性を知ることができたので、とても思い出深い仕事になりました。

――サイエンスアートという分野が認められた瞬間だったんですね。

そうですね。それまでは、あまりバイオの部分を強調することがなかったんですが、同じく3年前、ニューヨークのアーティスト・イン・レジデンス(※)で制作していたときに、評論家の方から「トップに立つためには、唯一無二の存在にならなければいけない。だからサイエンティストであることを前面に出して、自分が一番得意な分野で制作をしたほうが、きっと世の中に貢献できるような仕事になる」というアドバイスをいただいて吹っ切れました。

※アーティスト・イン・レジデンス:国内外から一定期間アーティストを招いて、滞在中の活動を支援する事業

――そういえば、清水さんは様々な海外のアーティスト・イン・レジデンスに参加されていますよね。

一時期ニューヨークや韓国のアーティスト・イン・レジデンスに参加して、制作や展示を行っていました。当時、日本で活動するのがちょっと息苦しくなってしまって、しばらく海外で活動していたことがあったんです。でも海外でレジデンスに参加しながら活動していると、評論家や学芸員などいろんな方から「グローバルに活動して生き残っていくためにはどうしたらいいか」というアドバイスをいただいて、「じゃあ一回、日本でも試してみよう」と思って帰ってきました。みなさんも是非一度は海外で活動されることをお勧めします。

――清水さんにとってサイエンスアートとは、どういった存在でしょうか?

「サイエンス」と「アート」って真逆の関係だと思われることが多いのですが、両方とも非常にクリエイティブな分野で、 新しいアイディアを探求し、常識の壁を打ち破るという意味では、とても近い存在ではないかと思っています。

今後、世界がさらに飛躍的な進化を遂げるためには、今まで組み合わせてこなかった要素や分野、今まで対極にあると考えていたもの同士をも組み合わせていく必要があります。だから私は、両方の分野の橋渡しをする存在でいたいし、様々な分野で活動している人たちのコラボレーションをサポートや促進するような活動もしていきたいです。

――最後に学生へ一言、メッセージをお願いします。

どんな分野でもいいので、興味のある分野は学生のうちに、できるだけたくさん学んでほしいなと思います。文系だから、理系だからという固定観念に縛られるのではなく、興味があることは何でも積極的に学んで体験してみてください。それはきっと自分の可能性を広げていくことに繋がるはずです。

そして失敗を恐れず、新しい分野に果敢に挑戦する。今は働き方にも人生の歩み方にもいろんな選択肢がある時代なので、もしやってみたいと思うことがあるのなら、一度きりの人生ですし、ぜひ挑戦してほしいと思います。きっと大変だけど面白いことがたくさん見つかると思います。

最後に、物事を長い期間、そして広い視野で考えること。
テクノロジーって、流行り廃りのサイクルがすごく早いんです。数年前に流行っていたものが今ではレトロになっている例がたくさんあります。だから真のイノベーターを目指すのであれば、トレンドに左右されず、もっと先を見越して行動する必要があります。何百年、何千年という長い期間で、そして地球だけでなく宇宙まで意識した広い視野で、本当に良いものとは何か、世の中に貢献するにはどうしたら良いか、といった本質的なことを考えて制作すると、作品のスケールが変わってきます。

学生の皆さんには、小さくまとまることなく、壮大なスケールで考え、より普遍的な価値を目指して、未来を切り開いていただきたいと思います。是非一緒に新しい世界を開拓していきましょう。本日はありがとうございました。

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