今、美大生が会いたい 僕らの師匠【映像ディレクター・渋江修平】
現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登場いただいたのは、独特なアイデアで見た人に強いインパクトを残し続ける映像ディレクター、渋江修平さんです。
(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華、インタビュー:軍司拓実)
渋江修平:映像ディレクター
長崎県波佐見町出身。映像制作会社勤務を経て、フリーランスの映像ディレクターとして活動。主にPV / CM / VP などの映像企画・制作を行っている。http://shuheishibue.com
――渋江さんは学生時代、どのような活動をしていらっしゃいましたか?
高校のときからずっとデザインを勉強していました。僕の通っていた学校にデザイン科っていうコースがあったんです。そこに入ってからデザインを勉強しはじめて、そのまま大学でも続けたかったので美術学科に進学しました。ひたすらデザインばかり学んでいましたね。
――デザインばかりを勉強していたのに、なぜ映像の世界へ飛び込もうと思い立ったのでしょうか?
大学2年生のときに、先輩たちとやっていた企画展で「映像やってみない?」って誘われたんです。映像学科はないので映像を学んでいる学生はそこに誰もいなかったんですけど、先輩たちと一緒に楽しみながらやってみたら思いのほか評判が良くて。それで自分には映像のほうが向いているのかもしれないって思うようになったのがきっかけです。
――そこから映像作品をどんどん制作するようになったんですね。
そうです。以前NHKに『デジタル・スタジアム』っていう番組があったんですよ。映像作品を一般公募して、そこから選出した作品を放送する番組で、審査員も有名な人たちが務めていたんですね。
僕は佐賀の大学に通っていて、すごく小さいコミュニティの中にいたので、やっぱり評判が良いとはいっても高が知れているわけじゃないですか。せっかく作ったんだから、やっぱりいろんな人に見てもらいたかったし、実際のところ自分の映像がどこまで通用するものなのか知りたいっていう気持ちもあって、その『デジタル・スタジアム』に作品を投稿していました。
結果としては、いくつか作品を番組で放送してもらえて、やっぱり自分は映像のほうが向いているんだって思うようになりましたね。
――今までに影響をうけた作品や人物などは何かあるのでしょうか?
Michel Gondry(ミシェル・ゴンドリー)です。面白いアイデア作品で有名なフランスの映像作家なんですけど、先輩がその作品集を突然くれたんですよ。それで見てみたら、すっごい面白くてハマりましたね。ミシェル・ゴンドリーからはかなり影響を受けている気がします。
あとはChris Cunningham(クリス・カニンガム)も好きでした。ほどよい気持ち悪さとアイデアの面白さがうまく融合されていて、すごくインパクトのある作品になっているんですよ。ほかにも現代美術家にハマったりしていました。
――映像制作会社を経てフリーランスの活動を始めた渋江さんですが、フリーランスになろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?
自分の中にすごく自信のある作品の構想があったんですよ。「この作品さえ世に出せれば、もう一生安泰だ」って思い込んでいて、意気込んで会社を辞め、実際に自主制作で作ってみたんです。10分ぐらいのショートムービーだったんですけど、いざ完成させてみたら本当につまんない作品で(笑)。もうガックリです。やっぱり現場経験が少ないので、考えが甘かったり、技術的な面でも初歩的なところでつまずいちゃったりするんですよね。
だから会社を辞めたあとは、『デジタル・スタジアム』に作品を投稿していたのがきっかけでつながったNHK関連の制作会社から、たまに仕事をもらいつつ、2年ほど派遣で印刷会社に勤めていました。
――お仕事の話は『デジタル・スタジアム』がきっかけで次第にくるようになったんですね。
そうです。ほんとに少しずつでしたけど。当時はNHKしか仕事をくれるところがなかったので、とにかくその仕事を失わないよう必死に制作していました。常に相手の期待を超えていかなきゃいけないっていうプレッシャーはすごかったです。1回でも失敗したら、もう仕事はもらえなくなるだろうって思っていたので、ほんとに毎回が真剣勝負でしたね。
そうやって仕事をこなしていたら次第に他の会社にも紹介してもらえるようになって、自分の名前や作品も知られるようになり、そこからやっと少しずつ仕事が増えていくようになりました。
SHUHEI SHIBUE showreel from SHUHEI SHIBUE on Vimeo.
――失敗したときのリスクが大きいという厳しさがフリーランスにはあるんですね。
そうですね。とにかくミスできないっていう怖さ。フリーランスを目指すなら、その恐怖に耐えられる強さがないとキツイと思います。誰のせいにもできません。
――渋江さんの作品はどれも面白くて気になるものばかりなんですが、特に最近公開された波佐見町の名産「波佐見焼」をPRする「は写メ焼」ムービーとか、思わず突っ込みたくなるような演出が満載で、ついつい最後まで見てしまいました。「は写メ焼」ムービーのアイデアはどのように考えついたのですか?
波佐見焼を有名にしたいというのが大前提なので、波佐見焼という言葉の響きを使いたくて。すごく写メに撮られている焼物!という実態があったので、「は写メ焼」というダジャレを考えました。それが決まれば、あとはとにかく観てもらうためにできるだけ引っかかりのある、突っ込みどころのある映像を目指すだけです。その結果、町長はマフィアになりました。
――PONDLOWの『線を紡ぎ出す』も、たしか波佐見町が舞台でしたよね。このMVもなかなか衝撃的な内容で、つい見入ってしまいました。
あれ実は、わりと身内ばかりで制作した作品なんですよ。僕、地元が波佐見町で、あの主人公のおじさんは僕の父、PONDLOWは僕の兄のバンドなんです。
実家に帰ったとき、すごく暇だったことがあって。それにちょうどカメラを買ったばかりだったので、なんか撮りたいなぁって思っていたんです。適当な材料ないかなぁって考えてみたら、兄のバンドの曲があるし、父も定年して時間に余裕があるらしい。しかも自分の家の周りが、緑豊かでいい場所なんですよ。監督いるし、俳優いるし、音楽あるし、場所もある。撮影に必要なものが全て揃っていたんですね。だから撮ってみました(笑)。
僕はいつも演出を考えるときに、もともとある素材を活かすっていう意味で、その役者が得意なことを考えるんですよ。僕の父はずっとトライアスロンをやっていたので、それをストーリーの中に組み込みたくて、あの展開になりました。あとはほとんど、その場その場の思いつきです(笑)。
――渋江さんは普段、どのようなことに気をつけて作品を制作しているんですか?
シンプルに「最後まで見られるかどうか」ですね。よく雰囲気もののMVで、なんの展開もなくひたすら同じようなイメージ映像が流れ続けるやつがあるんですけど、そういうのは自分が見ていられないので、できるだけ避けて制作しています。
あとは基本、あるあるネタみたいなのも意識的に避けるようにしていますね。やっぱりMVも観光動画も広告の一つなので、少しでも人に知ってもらうために目立たなきゃいけないんです。だから見た人の印象に残るようなインパクトとか違和感とか、なにかしらフックになるものを作品の中に組み込めるよう意識して制作しています。
――「最後まで見られる」映像にするためには、どんな要素が必要だと渋江さんはお考えですか?
映像に展開をつけることじゃないでしょうか。別に「2人が出会って苦難を乗り越えて感動!」といったドラマチックな物語を作るような難しいことじゃなくてもいいんです。たとえば、頭に釘が刺さったボーカルが登場するMVを制作するとします。そしたら映像が進むにつれて、刺さっている釘が増えていかないといけないんですよ。ただ1本の釘が刺さっているだけで最後まで歌われても、そこに展開はないですよね。別に釘じゃなくても、今度は金槌が刺さったとかでもいいんですよ。とにかく展開をつける。「この後どうなるんだろう」って思わせ続けることで最後まで意識を引き付けるんです。
――そう言われてみれば、渋江さんの作品ってものすごく展開が面白いものばかりですね。渋江さんといえばCGやグラフィックスなどを大胆に用いたスタイルも特徴的ですが、実写とCGで何か使い分けがあるのでしょうか?
本当は全て実写でやりたいっていう気持ちが強いんですけど、どうしても思いつくアイデアが実写不可能なものである場合が多いということがあって、予算や時間の関係で実写ができないときにCGを使います。だから使い分けているというより、いろんな制約に縛られた結果できあがったスタイルですね。
――なるほど。渋江さんはCGより、むしろ実写のほうに興味があるんですね。
そうなんです。だから本当は実写で、自由にカメラを動かしながら撮影するほうが好きなんです。それに実写の方が、撮る側も撮られる側もやりがいがあると思うんですよ。
CGを使うためにグリーンバックで撮影する場合って、自分にしか完成形が分からない状態で進むので、やっぱり出演者もカメラマンも自分の力を十分発揮できないと思うんです。もちろんコンテは書くし、完成した映像を見てみんな「おおー!」って喜んでくれるんですけど、撮影現場ではどこに何が写っているのか分からないし、役者の動きも限られちゃうので、みんなで工夫しながら制作していくことができない。監督としては、できるだけ参加者全員がやりがいを感じられるような現場を作っていきたいし、みんなが楽しいと思える撮影をしたいので、やっぱり実写がやりたいです。
――PONDLOWの『Fire』や、STSで放送された『復讐の鬼』、NHK『京都の一日』の番組OPなど、渋江さんのCG作品には日本的な和の要素が随所に見受けられるのですが、なにかこだわりがあるのでしょうか?
こだわっているというより、自分には日本のことしか分からないから自然とそうなったっていう感じです。僕の場合、撮影した写真を切り張りしてCGを作ることが多いんですけど、日本に住んでいるので、どうしても写真素材が日本のものになっちゃうんですよね。だから日本的なことがやりたいというよりは、自分の知っているものでやると日本的になるっていう感じです。
――そうだったんですね。CGを制作するときは、どんなことに気をつけていらっしゃるんですか?
画面をきれいに作ることです。僕の作品には血とか、ちょっとグロい表現とかが含まれているんですけど、できるだけきれいな画面作りをしていくことでアートとして昇華できるよう気をつけて制作しています。
色やトーンなどを理解せずに下手に合成しちゃうと、たぶん見られないものになっちゃいますよね。人に嫌悪感を抱かせてしまうものは作らないように気をつけています。
――渋江さんはどんなときに仕事のやりがいを感じますか?
制作をするときは自分で制作チームを作っていかなきゃいけないんですけど、仲間を集めてチームを編成し、みんなで一つの作品を作り上げられたときはすごくやりがいを感じますね。
以前は、自分のやりたいことを実現するためにスタッフを引きずり回す、みたいな感じだったんですけど、最近はもっとチームみんなで楽しめるような制作をしたほうがいいんじゃないかって自然に思うようになりました。メンバーの得意な分野とかもなんとなく分かってきて、面白系はこの人、真面目系はこの人みたいに、ある程度ジャンルごとにチームを作れるようになりました。
――今後、なにか挑戦してみたいことはありますか?
僕はいつも、日常でアイデアを思い付いたときは付箋にバッと書き留めておくんですけど、それがある程度たまってきたらノートに貼り付けてまとめて管理してるんですよ。そこにまだ、ものすごく良いアイデアがたくさんあって、出しどころをずーっと探ってるんです(笑)。もちろんクライアントからの要望を第一に考えるんですけど、なにかピッタリな案件があったら自分のアイデアを実現させていきたいですね。
――渋江さんはどんな映像作家でありたいと考えていらっしゃいますか?
純粋に、映像の面白さで話題を作れるような作家になりたいです。そして自分の映像を通して、もっとアーティストだったり商品だったりを目立たせていけたら嬉しいです。
それと同時に、みんなが「またやりたい!楽しい!」と思えるような現場を作っていけたらいいですね。
――最後に学生へ一言、メッセージをお願いします。
映像ファンになりすぎないことが大事だと思います。ファンになりすぎると、どうしてもその人の作風に似てきますよね。でも世の中に同じ作風の人はそんなにいらないんです。もちろん技術面で参考にするのは良いですが、イメージの部分では映像以外のいろんなものに触れるといいと思っています。小説とか絵画、写真でもいいと思います。大切なのは、映像以外のものから得たイメージを、自分だったらどうやって映像に落とし込むか考えることですね。
ある小説の中に「電車が息継ぎをしている間に」っていう表現があったんですが、これってつまり電車がホームに停車していることを表しているんですけど、描写の仕方がすごく面白いですよね。こういうときに、「もし実写化したら、これをどう映像で表現したらいいんだろう」って考えるんですよ。そうやって想像を膨らませていったほうが、映像を見るよりもずっと得るものが多い気がします。
――なるほど、自分なりの視点をもつことが大切なんですね。
そうですね。そうやって自分なりの考え方を集めているうちに、あるとき「あーこれが自分の個性なんだ」って気づくときがくるんですよ。だからあまり「自分の個性ってなんだろう?」とかって意識しすぎないほうがいいと思います。意識しすぎると、逆に分からなくなっちゃいますから。
学生のときに結構あったんですよ、そういうこと。美術の時間に「みんな、もっと個性を出してごらん」って先生から言われるんですけど、個性を出せって言われると、みんな妙にカラフルな絵になるんですよね。原色を使って、グチャッと描いたみたいな。それって個性じゃなくて「個性のイメージ」ですよね。結局それも何かのイメージに影響されちゃっているんですよ。
だからあまり「個性を出さなきゃ!」って無理する必要はないです。いろんなものに触れつつ、思うまま、感じるままを大切にしてください。

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