そこはかとなく好奇心を刺激するクリエイターの秘密基地。

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今、美大生が会いたい 僕らの師匠【映像ディレクター・小嶋 貴之】

   

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現役美大生が「いま会いたい、僕らの師匠」と直球で対談する、最高にクールなクリエーターズ・インタビュー。今回ご登場いただくのは、年間60本近くのミュージックビデオを手がけ、多彩な技術に裏打ちされた独自の世界観で人々を魅了してやまない気鋭の映像ディレクター、小嶋貴之さんです。

(企画・編集:丸山亜由美、執筆:坂口文華、インタビュー:軍司拓実)

小嶋貴之:映像ディレクター

 
CGや合成、独自のカメラテクニックなど幅広い技術と確かな演出力で、メジャー・インディーズを問わず多数のミュージックビデオやライブ撮影を手がけている。
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――小嶋さんが映像に興味をもったきっかけを教えてください。

もともとプラモデルとかレゴブロックとか、自分でものを作ることが好きだったんです。だから最初は建築に興味があったんですが、高校で全国大学一覧を見ていたときに「映画学科」っていう項目を見つけて、初めて映画が学べることを知ったんですよ。それがきっかけで、具体的に映像の世界を意識し始めた気がします。当時は高校の友達と映画を作ったりしていたので、「映画について学べるなら映画をやりたい」と思っていました。

だから高校を卒業したあと、今はもうないんですが東京映像芸術学院という映画について学べる3年制の専門学校に入って、映像の勉強を始めました。2年生以降は授業がほとんどない学校だったので、自主的に1、 2分の実験映像をよく制作していましたね。

実験映像といっても、僕はパッと見てすぐ面白いって分かるような、誰でも理解しやすい作品がいいと思っていたので、当時はMVみたいなものや、街の様子を360度コマ撮りした映像なんかを作っていました。

――東京映像芸術学院を卒業した後はどういった活動をされていたのでしょう?

とりあえず、いろんな映像を知ろうと思ってイメージフォーラム映像研究所っていう1年制の学校に入りました。そこを卒業したあとは、しばらくバイトをしながら過ごしていたんですが、25歳くらいのときに「このままだとマズイ」と思って、あと1年以内に結果がでなければ映像の世界は諦めようと決意しました。

それでMTVのSTATION IDコンテストっていう、10秒から15秒くらいのスポット映像を競うコンテストに作品を応募したら、思いのほかいいところまで行けちゃって、「これはもしかしたら」っていう自分の可能性が見えてきたんですよ。だから、あともう2年だけ頑張ってみようと考え直して本格的に動き始めました。

転機となったのは、株式会社クラブキングが出しているフリーペーパー『dictionary』に作品を応募したことですね。そのとき『dictionary』の映像版を作るっていう話があって、収録する映像を募集していたんですよ。だから試しにコマ撮り作品を送ってみたら、当時の担当者が気に入ってくれたみたいで、「制作費はこちらで出すから、ノーギャラで悪いんだけどバンドのビデオを作ってみない?」っていうお話をいただいたんです。FEED(フィード)っていう、当時The Smashing Pumpkins(スマッシング・パンプキンズ)の武道館公演で前座を務めるようなバンドだったんですけど、それが僕にとって最初のミュージックビデオになりました。

――そこから徐々にミュージックビデオのお仕事をするようになったんですね。

そうです。FEEDのミュージックビデオを見た他の会社の方から、うちでも作ってほしいと仕事をいただくようになって、それから徐々に音楽関係の映像の仕事が増えていきました。

――小嶋さんはずっとフリーランスとして活動されてきたということですが、自分からお仕事を取りにいったりすることはありましたか?

僕、3回だけ営業をかけたことがあるんですよ。うち1回はダメだったんですけど、残り2回のうち1回は駆け出しの頃、当時ソニーミュージックにいたACO(アコ)っていうアーティストが好きで、ホームページから直接「MV撮らせてもらえませんか?」って送ったんです。そしたらメールした3時間後に「ACOじゃなくてsleepy.ab(スリーピー)っていうバンドがいるんですよ」っていう電話をいただいて、sleepy.abとはそれ以来の付き合いですね。今でもMVを作らせてもらっています。

あともう1回は、今KOGA RECORDSの社長をしている古閑さんがやっていたVENUS PETER(ヴィーナス・ペーター)っていうバンドが昔からすごく好きで、2006年に再結成されたときに、また同じくホームページからメールしたんです。そしたら2日後くらいに古閑さんから連絡がきてOKをもらい、作らせていただくことができました。それがきっかけで、今はKEYTALK(キートーク)のMVも作らせてもらっています。

――1組のアーティストと関わったことをきっかけに、お仕事がどんどん広がっていったんですね。

僕の場合はそうなることが多かったですね。
10年以上前は、まだCGとか合成を使ったビデオが少なくて、そういった技術を持っている人も少なかったし、コスト的にも高いものだと思われていたんですよ。だけど僕は、リハーサルスタジオに自分でグリーンバックと照明機材を持ち込んでバンドメンバーを一人ずつ撮影し、それを後でAfter Effectsを使ってバンド編成に見えるよう合成するっていう方法でMVを制作していたので、コストをかなり下げることができたんですね。だから僕が重宝されていたのかもしれません。こういうビジネスパターンを一つ自分で持てたのは良かったですね。

――現在では年間60本近くの作品に関わっていらっしゃいますが、この数のお仕事をこなしていくコツはなんですか?

スケジュールをちゃんと立てることです。あと僕はいつも、1度スケジュール帳に書き込んだことは忘れるようにしています。ずっと頭の中に残しておくと、どんどん積もって苦しくなってしまうので、とにかく1回メモしたら忘れる。自分の助手にも「スケジュール帳を付けろ」ってすごく言います。

僕は基本的に、来た仕事は断らないようにしているんですが、唯一断るのはスケジュールが合わないときなんですよ。それもいきなり断るわけではなくて、「僕のスケジュールはこうなっているので、何日かずらしてもらえたら撮れますよ」っていうことをちゃんと伝える。それでもやっぱり合わないときに断るという感じなんです。

――なるほど、スケジュール管理を徹底されているんですね。それでも1年に60本近く制作していると、かなりお忙しいと思われるのですが、それぞれの企画のアイデアは普段どのように考えていらっしゃるのでしょうか?

まずは何回も曲を聴きますね。そうすると突然、その曲がどういう曲か分かる瞬間があるんですよ。例えば、ストレイテナーの『Man-like Creatures』を初めて聴いたときは「面白い曲だな」っていう印象だったんです。でも50回くらい聴いたときに「あれ?かっこいいな」って思うようになって「そうか、この曲はかっこよく撮ればいいんだ」って気づきました。きっと曲を聴き続けることで、先入観が削ぎ落とされていくんだと思います。だから僕は、まず自分の先入観をなくして曲の本質を理解するために、とにかく何回も曲を聴くようにしています。

あとは、もともと自分のなかにストックしてあったアイデアや表現技法を当てはめていくこともあります。僕が映像の勉強を始めた頃は、使える機材が8mmフィルムカメラか家庭用のビデオカメラしかなかったんですよ。だから、どうやって映像を加工すれば綺麗に見せられるかっていうのをすごく考えていて、そのときからストックしてきたアイデアや技法を案件に合わせて使ったりします。

――小嶋さんといえば、やはりCGや合成によるギミックの効いた演出が特徴的ですよね。CGや合成をする際に気をつけていることは何かありますか?

背景と人物をなじませることですね。例えば映像に光を感じるエフェクトをかけたり、わざとノイズを乗せたりして、より自然な映像に見えるようにしています。

あとはカメラをなるべく手振れさせたり、手前の対象人物をぼかしたりして、わざとエラー感を出したりもしますね。なるべく実写に近づけたい気持ちがあるので、特に昔はそういうところにこだわって制作していました。というのも、自分のなかに「ビデオカメラの映像は大して美しくない」っていう思い込みがあるみたいで、なんか加工しないと気がすまないんですよ。だから多分、僕はちょっとやりすぎているところがあると思います。

他のディレクターさんの作品を見ていると、結構すっきりと撮るのもいいなって思うので、最近は大分、そういったエフェクトを抜いていくようになりました(笑)。ビデオカメラの性能も随分よくなってきて、普通に撮っても十分綺麗ですし、もうちょっとカメラの技術を信用してみようかなと最近は思っています。

――エフェクトとカメラワークによって、より実写に近い自然な映像に仕上げていたんですね。そういえば小嶋さんの作品には、光による演出が多く見られる気がします。

あれも実はちょっとやりすぎている気がします(笑)。でも光を多く使っているのは、アーティストをかっこよく見せるためのコツでもあるんですよ。

フランスにRobert Bresson(ロベール・ブレッソン)っていう監督がいるんですが、この方の映画は表現がすごくシンプルなんです。例えば、斧が画面の上から下へスッと通り過ぎるシーンだけで人を殺したことを表現する。リアルに人が殺されているシーンを見せるよりも、実はそのほうがずっと怖いんですよ。なぜなら、観客がそれぞれ自分なりに怖い映像を想像するから。

それと同じで、アーティストをかっこよく見せたかったら、あえて見えない部分を作って観客にかっこいい姿を想像させるんです。だから逆光を使ったり、シャドーを濃くしたり、光でぼかしたりして見えない部分をわざと作り出しています。

――そんなテクニックがあるんですね。小嶋さんは他にも様々な演出をされていますが、自分にできることの幅はどのように広げていったのでしょう?

ほとんど見よう見まねで覚えました。
僕は他の人の作品をたくさん見るタイプなんですよ。たくさん見ることで、今の世の中のトレンドを知ったり、批判的な視点で何が悪いのかを考えたり、いろいろ自分で研究しながら勉強しています。

――小嶋さんがこれまでに何か影響をうけた作品はありますか?

僕は映画がすごく好きなんですよ。
そして正直いうと、合成やCGの本場であるハリウッドみたいな映画はそんなに好きじゃないんです。合成やCGが嫌いなわけではないんですが、映画作品として見るときは、どちらかというと実写の映画が好きなんですね。だから北野武さんとか、森田芳光さん、黒澤明さんとか、最近だと『海街 diary』の是枝裕和さんや『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也さんなんかはよく見ます。

海外だと例えば、台湾のエドワード・ヤンとか、アンドレイ・タルコフスキー、ミヒャエル・ハネケなんかの映画をよく見ますね。

あとPeter Greenaway(ピーター・グリーナウェイ)っていうイギリスの監督がいるんですが、彼の作品の1つに『数に溺れて』っていうのがあるんですよ。これは全部で100カットからできている作品で、1カット目には必ず映像のどこかに1、2カット目には必ず2、という感じで全てのカットに数字が隠されていて、しかもちゃんとストーリーにもなっている。僕はそういった実験映画もすごく好きですね。

――広告という側面も持つミュージックビデオですが、多くの人に見てもらえる作品を制作するにはどうしたらよいと小嶋さんは考えていらっしゃいますか?

今はSNS全盛期なので、一言で伝わることが大事だと思っているんですよ。だからMVを制作する際は、曲やアーティストの特徴が浮き立つようなテーマ性を一つもたせるようにしています。

――小嶋さんが作品を制作するうえで大切にしていることはなんでしょう?

そもそもオーダーあっての仕事なので、常に相手の期待を上回る仕事をするように心がけています。

あとは、どれだけ面白くて良いアイデアでも、決められたテーマに沿わないものであれば捨てる、という考えを持つことが大切ですね。面白いからといってアレコレ詰め込んでしまうと、焦点の合わない、どこかずれた作品になってしまうので、必ず作品のテーマには一貫性をもたせるよう気をつけて制作しています。

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――映像ディレクターにはどんな能力が必要だと、小嶋さんはお考えですか?

自分の意見を強く持つことでしょうか。
制作中に唯一ワガママを言えるスタッフがディレクターなんですよ。というか、ワガママを言わなきゃいけないのがディレクターという仕事なんです。例えば、みんなが右を向いているときに左を向けって言えるのはディレクターだけですし、もし左が正しいのであればディレクターは嫌でも左と言わなければいけないんですね。せっかく1時間かけて作ったセットを変えなきゃいけないときとか、僕でもすごく悩むんですけど、そこでディレクターが流されてしまって、誰も喜ばないものができてしまったら取り返しがつかないので、言うときは言うことが大切です。

――でも最初はなかなか、本当に自分の考えが正しいのか迷ってしまって、周囲の動きに流されがちですよね。どうしたら自分の考えを強く持てるようになるのでしょうか?

僕は本をたくさん読んで、いろんな人の考え方を自分と照らし合わせたりしていました。「あの人はこう言うけど、自分はこうだと思う」って読みながら考えるんです。それは映画を見るときも同じで、必ず自分なりの意見を考えながら映像を追うんですよ。そこでしっかり考えておけば、自分の思考回路が分かってくるし、そのときに出した自分なりの答えは頭のなかに残っていく。そうやって思考を重ねていくことで、だんだん自分の意見とか考え方が形成されていくんですね。

あとは考えていることを声に出して話してみる。実際に自分の考えを言語化してみると、ビックリするくらい自分を客観視できるんですよ。それに相手の反応を見ることで、自分が言っていることは正しいのか、自分は本当に納得できているのかっていうのが分かる。

そうやって考えを言語化する癖をつけておけば、いざ何かあったときも、ちゃんと自分の意見を言うことができるんです。イメージとしては、部活でひたすら基礎練習を繰り返す感じです。あれだけ練習したんだから勝てるだろうって自信もつきますよね。

――なるほど。自分の頭で考えて、その考えを言語化する癖をつけておく、ということですね。

そうです。映像制作は共同作業なので、相手にきちんと自分の考えを理解してもらうためにも、言葉にすることは大切です。

――小嶋さんは、今後どのような映像作家でいたいと考えていらっしゃいますか?

よく小嶋マジックとか小嶋ワールドとか言われるんですが、そうじゃない世界観の作品も撮っていきたいですね。映像や音楽なら何でも好きなので、自分のなかに制限を持たず、いろんな映像やアーティストを撮影していきたいです。

――小嶋さんにとって映像とはなんでしょう?

言葉と同じくらい重要な表現手段です。
言葉では伝わらないことも、映像を使えばすぐ伝わったりしますよね。だから表現手段の一つとして、なくてはならないものだと思っています。

――最後に、学生へ一言メッセージをお願いします。

好きなことをとことんやってほしいです。映画が好きだったら、とことん見て、もうマニアックぐらいになってほしい。

何でもいいんですが、何か1つのことに対して執拗に楽しめるかどうかですよね。それができないのであれば、大して好きじゃないってことです。ほんとに楽しいと思えることだったら、きっと何かしらの形にはなると思うんですよ。だから学生のうちは、ひたすら自分のやりたいこと、好きなことを深めていってください。

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